1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]
2012/01/20(金) 12:44:06.81 ID:qDthev5k0
  
  短い会話を終えて、携帯をポケットにしまう。  
    
  今から来て、の私の言葉にわかった、とだけ律が答えて電話は切れた。  
  気の早いあいつのことだから、すぐ家を出ているはずだ。  
  本当は私だって急ぐべきなんだろう。  
    
  でもこれから、時間はたくさんある。  
  そう思いながら、昔よく行った駄菓子屋へ一人立ち寄った。  
    
  狭い店内にたくさんのお菓子。それを適当に全部二つずつカゴに入れていく。  
  店のおばあちゃんは皺々の手で、商品を袋に詰めながら手早く値段を計算する。  
    
  その間に店を見渡すと、懐かしい小さなピンクのボトルが目に入った。  
    
    
  「460円ね」  
    
  「すみません、これもください」  
    
  「はいはい、じゃあ560円」  
    
  「ありがとうございます」  
    
  「いいお姉さんになったね。また来てね」  
    
    
  覚えてたんだ。  
  笑い皺たくさんの目元につられて、こちらも思わず笑顔になった。  
  いいお姉さん……か。  
    
  手に持ったレジ袋が時折スカートに当たる。  
  一歩踏み出すたびに足音に混じってしゃりしゃりと音を立てた。
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2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]
2012/01/20(金) 12:49:13.88 ID:qDthev5ko
 少し歩くと目的地が見えた。 
  
 私が河原のあの辺、と伝えれば律はきっとそこにいる。 
 堤防の階段を上りきると、坂の下に座り込む律の姿が見えた。 
  
3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]
2012/01/20(金) 12:56:00.45 ID:qDthev5ko
 「これまた買い込んだなー」 
  
 「全部二人分あるから」 
  
 「昔はこの半分も買えなかったのよな」 
4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]
2012/01/20(金) 13:04:01.49 ID:qDthev5ko
 「安くてうまくて、駄菓子って最強だよなー!」 
  
 「そうだな。あの店もなくならないでほしい」 
  
 「でもあそこ、私たちが小さい時からおばあちゃんはおばあちゃんだったからな。 
5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]
2012/01/20(金) 13:25:25.69 ID:qDthev5ko
 「澪なら余裕で受かるよ。って、こんだけの量買ってきたヤツのセリフかー?」 
  
 「わたしも油断出来ないし……律も頑張るの! 
    今日中に食べ切れなくてもいいんだし。そうだ、聡に持って帰ってやれば?」 
  
6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]
2012/01/20(金) 13:42:30.73 ID:qDthev5ko
  
 律はにっこり笑ってピンクのボトルを手に取った。 
  
 「しゃぼん玉じゃん!なつかしー」 
  
7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]
2012/01/20(金) 13:53:03.57 ID:qDthev5ko
 「よし、今度は負けないぞ!」 
  
 「私だって、もっと大きいの作る!」 
  
 周りにはたくさんのしゃぼん玉がすぐに溢れた。 
8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]
2012/01/20(金) 13:59:02.89 ID:qDthev5ko
  
 「……うん、そうだよ」 
  
 「話さないのか?」 
  
9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]
2012/01/20(金) 14:10:23.86 ID:qDthev5ko
 「……うん」 
  
 「だから、大好きだって言った」 
  
 「ちょっ……澪」 
10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]
2012/01/20(金) 14:16:14.35 ID:qDthev5ko
 「ママ、その時やっとこっち向いたんだ。 
  ママもりっちゃんが大好きよ、って……」 
  
 緊張が解けたのか、律は大きくため息をついた。 
  
11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]
2012/01/20(金) 14:26:23.13 ID:qDthev5ko
  
 「わたしに恋人が出来るなんて……ママもおばさんになったわけだ、って寂しそうにまた笑ったんだ、ママ」 
  
 そう言い終わらない間に、思わず涙声になってしまった。 
 それを恥ずかしいなんて思う暇もなかった。 
12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]
2012/01/20(金) 14:44:51.62 ID:qDthev5ko
 「何かあるなとは思ったんだよ。用事あるなら帰り道に話せばいいのに、家帰ってすぐ呼び出すし」 
  
 「ごめんな、せっかく今日は部室寄らず帰ったのに」 
  
 「いいよ、部室寄らなかった分まだ夕方だし」 
13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]
2012/01/20(金) 14:52:02.71 ID:qDthev5ko
 「だから……まずは受験!私も澪も、帰ったら死ぬ気で勉強!」 
  
 「あんまり気合い入れ過ぎて抜け殻になるなよ?」 
  
 「気を付ける!」 
14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]
2012/01/20(金) 15:02:33.14 ID:qDthev5ko
 「……私も一緒に大人になる!」 
  
 「ゆっくりでいいよ、時間はいっぱいあるんだから」 
  
 「……大丈夫、かな」 
15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]
2012/01/20(金) 15:08:55.35 ID:qDthev5ko
 「え?」 
  
 「律、見て!」 
  
 私が促すと、律もそちらに目をやった。 
16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]
2012/01/20(金) 15:29:09.94 ID:qDthev5ko
  
 「……はは、駄菓子食べよっか」 
  
 「夕飯食べられなくなるぞ〜?」 
  
17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]
2012/01/20(金) 18:01:45.31 ID:qDthev5ko
  
 そんな風に笑いながら、いくつか駄菓子を半分にわけて食べた。 
 ボトルが空になるまで吹いたしゃぼん玉は、風に流されて見えなくなる。 
  
 その行方はもう、気にならなくなった。 
18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]
2012/01/20(金) 18:08:06.42 ID:qDthev5ko
 「そっか。何か照れるな」 
  
 「何が食べたい?」 
  
 「澪ママはお料理上手だからなぁ。迷う」 
19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]
2012/01/20(金) 18:08:54.24 ID:qDthev5ko
 おわる。 
20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2012/01/20(金) 18:35:13.89 ID:9HruO769o
 いい雰囲気でした。 
 乙 
21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]
2012/01/20(金) 20:31:38.81 ID:5RvAinioo
 乙である 
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