65:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:59:01.68 ID:A45p+aH70
爪は首筋の黒い核を押さえ、自分が壁に開けた穴から、ためらいもなく空中に身を躍らせた。そしてなにもない虚空を足で蹴り宙を舞う。数秒後、実に驚異的な距離を弾丸のように舞い、正体不明の侵入者が突き刺さったビルのその土煙を上げている崩れた壁に難なく着地する。
オフィスビル。何かの事務所のようだ。慌てふためき出口に殺到する人間達を一瞥もせず、爪は白煙の中でベロリ、と上唇を伸ばした舌で舐めた。
何人か、崩れた瓦礫の下敷きになって呻いている。
手を刺し伸ばすことも、それどころか場所を変えようともせずに。
爪はまだもくもくと煙を上げている、眼前の部屋の壁……合成強化コンクリートの穴に向けて左手の人差し指を伸ばした。そして激鉄を起こすように、親指を上に向かってクイッと上げる。
彼がその親指を前方に曲げると、突き出した人差し指の周辺が直径十センチほど、音を立てて回転した。空気というのだろうか。それとも、空間それ自体というのだろうか。
その回転した空気の渦は、甲高い気流を裂く音をたなびかせながら、ゆっくりとその穴に向けてはじき出された。
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