過去ログ - 織莉子「私の世界を守るために」
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20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2012/05/05(土) 12:27:48.27 ID:r7NxxgN10
 歩き始めてから一言も口を利かなかった織莉子が、唐突に口を開いた。

「その予知は絶対のものではないのだけれど、当る確率は、とても高い。殆どの場合に当る、と言ってしまっても良いかしら。とにかく、私はその能力を使って、魔女の発生地点をほぼ確実に当てる事が出来る」

「"ほぼ"っていうのは……つまり外れることもある、ということ?」

「ええ、もちろん。百パーセントの物事なんてそうはないもの。私が予知できるのは、"このままの状態で未来が進行していった場合"に生じる出来事よ。その未来へと向かう過程で、誰かが不意に予測不可能の事をしてしまったら――その未来は全く別のものになってしまうかもしれない」

「じゃあ、その精度というのは――こう言っては失礼だけれど、それほどアテにならないものなんじゃ」

「……黄色いの、それは織莉子と私に喧嘩を――」

「そうね。不確定要素が含まれることで、予知された未来はいとも簡単に変わってしまう、それは事実よ。けれど、私の未来予知というものはそういった"不意に為される不確定要素"をも包含して行われるの。つまりそれは、それが客観的には不確定要素ではあっても、私の能力からしてみれば既に確定された事象だということ」

「だから、織莉子の予知っていうのは殆ど確実なものなんだ!あんまりふざけた事を言うと、たとえこれから盟友になろうという相手でも刻まざるをえないよ!」

「ありがとう、キリカ。でも、巴さんに悪気はないわ。だから、その爪は仕舞っておいて、ね?」

「う〜ん……織莉子が言うなら……分かった、今度だけは許すからね!織莉子の寛大な心に感謝してくれよ、黄色いの!」

 確かに、それはそうだろう。5分先の事を予知したとして、2分先に風が吹いてその予知を覆すような事があっては話にならない、それではまるで欠陥品だ。彼女がその言の通り高精度の未来予知を実現させているのならば、その過程で生じる何事かをも勘案していなければならない。

 手の甲から生じた禍々しい紫紺の爪剣をしまいつつ、キリカはその代わりに口を尖らせていた。

「じゃあ、その"外れる"場合というのは」

「その未来を変えようと、誰かが積極的に活動した場合よ」

「美国さんの予知した未来を知って?」

「そう。私の予知した未来はほとんど確定されたもので、それを捻じ曲げるには意図的な干渉が必要なの。そしてそれこそが私の目的でもあるの。来たるべき災厄から、私の世界を守るために。そのためだけに、今の私は動いている」

「――ワルプルギスの夜……それほど強大だと言うの……」

「ええ、もちろん、それもあるわ。彼女の力はまさに圧倒的で、見滝原と、その周辺区域を破壊し尽してなお余りある力を秘めている。……けれどそれは、結局の所ほんの引き鉄に過ぎないの。本当の破滅は、真の絶望は、その後にやって来る。そして私は、その絶望を予知してしまった」

「その絶望は、ワルプルギスの夜をも凌ぐと……?」

「馬鹿げた冗談のように聞こえるかもしれないけれど、少なくとも予知で視たビジョンではそうだった。……私たちは、過去を変える事は出来ない。過去によって作られた今も、同じこと。今の私たちにできるのは、せいぜい未来に備え、最悪の自体をぎりぎりで逸らす程度。いえ、それすらも不可能かもしれない。あの災厄はあまりにも大きくて、ほとんど起こるのが決まってしまっていると言っても良い。でも、私の予知が外れることもある以上は、そのわずかな可能性を胸に挑むしかない。世界を――そう、私たちの世界を守るために」

「そしてその一環として、私に近づいた、と」

「端的に言ってしまえば、そういうことになってしまうわね。……ごめんなさい、こちらの思惑に乗せる形になってしまって」

「いえ、良いのよ。ワルプルギスの夜が来ることも教えてもらったことだし――」

 それに、と言いかけようとして、その言葉はキリカに阻まれることになった。彼女に言いたい事を阻まれるのはこれで二度目だ。これまでの純粋そのものの言動を鑑みるに、彼女に他意は無いのだろう。だがそれでも、こうやって口上を阻まれるのは良い気がしない。

 マミの心の中に、再び昏い火が灯った。先まで織莉子と話していて、だいぶ落ち着いてきたというのに。

「着いたよ。多分ここが――織莉子が予知した場所、なんじゃないかな」

 そこはマミの知らない場所だった。恐らくは見滝原の郊外、さらにその端の端。再開発の行き届いていない、時代に取り残された場所だった。ものやひとが移動する、ただそのためだけの存在、輸送の路、「道路」という名がまさに相応しいその道に面した、たった一軒のあばら家。それが、キリカの指した場所だった。

「ちょっと待ってね……そう、あれ、あれよ。あの場所に、今から15分後に魔女の結界が発生するわ」

 織莉子は、こめかみに指を当てて考えるようなポーズをとった。恐らく、予知で視た光景を脳裏に再現しているのだろう。

「たしかに、不気味な場所ね。魔女じゃなくて、おばけも出そう」

「そちらの方が困るわね。魔女なら倒せるけれど、おばけ――幽霊や妖怪の類だったら、果たして魔法少女の力が通用するかどうか」

「大丈夫さ。最後に勝つのは、私たちの愛なんだからね!」

「うふ、そうね……」


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