過去ログ - 織莉子「私の世界を守るために」
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41:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]
2012/05/19(土) 15:58:26.86 ID:oO9qLT0Vo

 ある朝の事だ。

 その日もいつものように、織莉子は朝食を携えて父の書斎へと向かった。
真鍮で装飾された古いトレーの上に乗っかったトーストとハムエッグ、濃いめのコーヒーにシュガーとミルクを添えた、胃の腑に血が行きすぎないための簡素な食事。
ただし使われている食材はどれもがそこそこ高級な、名家のプライドと経済的負担の双方を妥当する品々だった。

 朝食を作るのは織莉子の役目だ。
皆の幸福の為に日夜汗水を垂らしてはたらく父、母の死後、男手ひとつで自分を育ててくれた父の為だ、何を惜しむ必要があるだろう。
織莉子は、一日24時間に割り振られたあまりにも少ない自分の自由にできる時間を、父に作る食事の勉強に費やした。

 その日はスクランブルエッグにしようかサニーサイドエッグにしようかを悩んだ末に、ハムが何枚か余っていたことに気付いて、織莉子はハムエッグを作ることにした。
時にはウィンナーソーセージを焼くこともあったけれど、大抵は簡素な、けれど出来る限り小味を効かせた玉子料理を作るのがほとんどだった。

 そうやって出来たほやほやと湯気を立てる食事を脇の卓に置いて、織莉子はドアをノックした。
けれど、どういう訳か返事がない。
決まりの良い久臣の事だ、この時間には絶対に目が覚めているはずなのに、礼を失するほどのノックを叩き込んだって、父からの応答は返ってこなかった。

 織莉子は思った、ああ、最近のお父様は疲れが溜まってらっしゃるようだし、きっとお寝坊をなさったんだわって。
だったら起こさなくちゃ、だってお父様は今日もお仕事なのだし。でも今度の休日には、ゆっくりお体を休められるよう、身の回りの事は私がやらなくっちゃ、てね。

 ドアノブを回して、扉を押そうとした。
でも今度は、訳が分からない事に、まるで何かに引っかかってしまったかのように扉が動かない。


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