過去ログ - 織莉子「私の世界を守るために」
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82: ◆qaCCdKXLNw[saga]
2012/07/17(火) 04:04:00.49 ID:yIkrPX16o
***
 そこにいたのは黒い少女だった。
身長と幼い顔立ちからいって、自分より2、3歳ほど年下だろうか。もしかしたら小学生かもしれない。

 だが織莉子が初めに考えたのはそんなことではなかった。

 見られた!

 織莉子はパニックに陥った。

 見られた、見られた、見られた!
どうすれば良い、どうすれば。

 そんなの、決まってるだはないか、彼女のこともまた手にかけるのだ。
目撃されたのだ、自分が人を殺すさまを。
この情報はどこかしかから漏れ出すだろう。そしていずれはインキュベーターへと伝播する。それだけは避けなければならなかった。

 殺さなければ、この子を――。

 むにゅ、と柔らかい感触が身体を包んだ。はて、と織莉子は脳は空転し出す。

 そうだ、まず状況を整理しよう。
自分は、つい今しがた一人の魔法少女を手に掛けた。
平静を装うために魔女を狩りに行こうと己を奮い立たせて動き出すと、声を掛けられた。
つまり自分の犯した罪を目撃されたのだ。
見られた以上、目撃者を生かしてはおけない。そう考えた自分の表情はきっと鬼気迫るものがあっただろう。

 ところが、どういうわけか自分はその子――目撃者に抱きしめられている。
自分より頭一つぶん小さな身体を精いっぱい使って、この黒い少女はぎゅっと自分のことをハグしているのだ。

「やっと見つけたぁ……」

 そう噛み締めるように呟きながら。

 殺害現場を目撃されたことと抱擁を受けていることに因果関係が見出せないで混乱する織莉子から、ようやく身を離して、

「初めまして、私は呉キリカ。私は、美しいひと――キミに仕えるために生まれてきた者だよ」

 にかっと、少女は八重歯を見せて笑った。

 織莉子はぽかんと口を空けて何もいう事が出来なかった。

「心配しなくっても良い、私はキミを否定しない。キミがなにをしようとしまいと――私はすべてそれを受け容れよう。キミが私の主なんだからね!」

 言っていることの意味が分からない。この娘は正気なのだろうか。

「あ、正気を疑ってるね?……まぁ、それも無理はないかなぁ。
 ――実は私はキミに恩を受けていてね、恐らくキミの方じゃ憶えてすらいない些細なことなんだろうけど。
 ……自慢じゃないけど、私ってば他人に恩を受けたことなんかこれっポッチもなくってね、何と言ったらいいかな……そう、一目惚れしてしまったんだよ、キミにね。
 それは私にとってはまさに天啓だった。私は、その時優しくしてくれたキミという人間に仕えたくなった。キミと言う存在にすべてを捧げたくなったんだ。
 そう、私はキミを、愛してしまったんだ!」

 やはり要領を得ないことだった。
まるでその時に思ったワードを、吟味もせず直に発声しているようだ。
怪訝な顔をしている織莉子の反応を意に介さず、呉キリカと名乗った少女は続ける。

「キミ、彼女を殺したね?」

 実にフランクな口調で、織莉子の突いて欲しくない所を的確に突いてきた。

 「殺した」。その言葉が彼女の口から発せられた瞬間、織莉子は身を震わせた。

 そう、結局のところ事態はなんらも好転してはいない。
今現在も先の少女の遺体はそこらへんに転がっているのだ、殺害方法が方法なだけに警察関係に特定される心配はないだろうが、魔法少女絡みとなると話は別だ。
一刻も早くこの場を去らなければならないのに、自分はこの場でなんだか良く分からない少女に囚われている。

 最悪だ、織莉子はそう思った。




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