過去ログ - River -いつまでも変われないあなたへ-
1- 20
1:ちぢれ[sage]
2012/05/03(木) 23:13:32.44 ID:yoGXwZnsP

 「下流の方にもっと大きな橋があるから、飛び込むんだったらそこからにしなよ」



 不意に声をかけられ、私は振り向いた。

 声の主は、この近くの高校の制服を着た、男の人だった。

 多分、私より2、3歳くらい年上だ。



 「あっちの橋の高さだったら死ぬには十分だろうし、流れも急で川底も深いから、まず助からないだろうね。そんなに人通りは多くないけど、まぁどうせやるならオススメは夜――」



 「あ、……え?」



 「――っと、あー、す、すいません。なんか俺の早とちりみたいですね」



 彼は頭を軽く掻いて、困惑している私をよそに言葉を続けた。



 「迷惑ついでになんですけど、ハンカチ持ってませんか?」



 ……持ってる。

 でも、それは人に借せるハンカチじゃなかった。



 「よかったらこれ、使って下さい」



 私の答えを待たずに、彼はズボンのポケットからハンカチをスッと取り出し、私の手にそっと握らせた。

 すると「じゃあ」と一言添えただけで、何事も無かったように橋の向こうへと行ってしまった。



 なんだ。自分でハンカチ持ってたんじゃない。なら、なんで――あぁ、そうか。



 納得して、心がざわついた。すると枯れたと思っていた涙が自然と溢れだし、火照りきっていたはずの頬をさらに熱く濡らしていく。


 すでに涙と鼻水でびちょびちょになっているハンカチを鞄から出して、乱暴に顔へと押し当てた。

 彼がくれたハンカチは、使わなかった。





 橋の上で嗚咽を漏らす私の事など気にも止めず、眼下の川は……『あふれず川』は、今日も静かに流れていた。

SSWiki : ss.vip2ch.com(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)



2:ちぢれ[sage]
2012/05/03(木) 23:15:20.93 ID:yoGXwZnsP
 10年前の僕へ。

 君が今どういう気持ちで生きているのか、僕はあまり覚えていません。

 ただ、自分がこれからどうなっていくのか分からない。そんな、見えない未来が、すごく怖かった気がする。
以下略



3:ちぢれ[sage]
2012/05/03(木) 23:17:54.92 ID:yoGXwZnsP
 うー、今日は目覚めが悪いな。……いや、いつものことか。
 
潤一「別に夜更かししたわけでもねーのに、なんでこんなに眠いんだよ」

 朝日を遮るように頭まで布団をかぶる。気分はまるでドラキュラだ。
以下略



4:ちぢれ[sage]
2012/05/03(木) 23:20:16.78 ID:yoGXwZnsP
 重い体をゆっくりと動かして布団から起き上がると、叩きつける様にして机の上の目覚ましを止めた。
 すると、ウソみたいに部屋が静まり返る。

潤一「……はぁ」

以下略



5:ちぢれ[sage]
2012/05/03(木) 23:22:26.24 ID:yoGXwZnsP
 5月7日(火) 朝

千沙渡「おはよう。潤一にいさん」

 仕度を終えて玄関のドアを開けると、そこには『伊東 千沙渡』がいた。
以下略



6:ちぢれ[sage]
2012/05/03(木) 23:23:38.49 ID:yoGXwZnsP
千沙渡「どうしたの? 頭に何かついてる?」

 俺にジッと見られていることに気がついた千沙渡が、頭をかしげて言った。

潤一「いや、引っ張りたいなーと思って」
以下略



7:ちぢれ[sage]
2012/05/03(木) 23:26:24.85 ID:yoGXwZnsP
潤一「そういや、最近引っ張ってないな」

千沙渡「大人になった証拠だよ。潤一にいさんはもう高校生になったんだし、そういういじめ方ってよくないと思うんだ」

潤一「いじめじゃねぇよ。愛情表現だ。つまりは千沙渡、おめーを愛でてんだよ」
以下略



8:ちぢれ[sage]
2012/05/03(木) 23:31:20.36 ID:yoGXwZnsP
 伊東千沙渡は、3つ年下の幼馴染だ。
 中学2年生で13歳。朝はこうして途中まで一緒に登校することが多い。

 本当は、彼女は俺の幼馴染と言うより、俺の弟の幼馴染だと言った方がいいかもしれない。
 俺の弟が千沙渡と同学年でなければ、例え近所に住んでいたとしても、一緒に登校するような関係にはならなかっただろう。
以下略



9:ちぢれ[sage]
2012/05/03(木) 23:33:08.82 ID:yoGXwZnsP
潤一「ばっ、バッカ。誰がおめーなんかに発情するかよ」

千沙渡「そうかぁ、潤一にいさんは今発情期なんですね……ぷぷ」

 口元をおさえて千沙渡は今にも吹き出しそうにしている。
以下略



10:ちぢれ[sage]
2012/05/03(木) 23:35:07.77 ID:yoGXwZnsP
 家から20分ほど川沿いを歩いて、大きい橋に出た。
 この橋を渡れば、俺の高校。
 このまま真っ直ぐ川を下っていけば、千沙渡の通う中学校だ。

潤一「じゃ、またな」
以下略



11:ちぢれ[sage]
2012/05/03(木) 23:39:10.46 ID:yoGXwZnsP
 橋の中ほどまで歩いて、足を止めた。

 欄干の向こうで、川が緩やかに流れている。
 朝日を反射させて、まるで何かを祝福しているかの様に、キラキラとその川は光っていた。

以下略



12:ちぢれ[sage]
2012/05/03(木) 23:41:07.82 ID:yoGXwZnsP
 俺もこの町に住んで長いから、知っている。
 どんなに天気が荒れても、この川は増えも減りもしない。
 毎年の様に夏から秋にかけてここにも台風が来るが、下水道が詰まって溢れることはあっても、なぜかこの川は流れを変えない。

 確かにこの川は異常だ。
以下略



13:ちぢれ[sage]
2012/05/03(木) 23:43:45.58 ID:yoGXwZnsP
  放課後


 授業が終わり、今日来た道をゆっくりと帰る。
 橋を渡り、川沿いの道を歩いていく。
以下略



14:ちぢれ[sage]
2012/05/03(木) 23:46:10.39 ID:yoGXwZnsP
潤一「はー、今日も疲れた……」

 大きく伸びをしながら、俺は地面に寝そべった。
 そうして、目の前に広がる空。
 オレンジと青のグラデーション。
以下略



15:ちぢれ[sage]
2012/05/03(木) 23:48:32.49 ID:yoGXwZnsP
潤一「いつまで続くんだろうな。こんなこと」

 目をつぶって、ひとり物思いにふける。
 これは、俺の日課だ。
 近所の爺さんがここで犬の散歩をする様に、俺は放課後ここで寝るのを日課にしている。
以下略



16:ちぢれ[sage]
2012/05/03(木) 23:50:25.83 ID:yoGXwZnsP
 ……。
 …………。
 ………………。

 ……………………ドスッ!
以下略



17:ちぢれ[sage]
2012/05/03(木) 23:52:16.93 ID:yoGXwZnsP
 俺の胸の上で、微かに声を漏らす見知らぬ少女。
 しかも、どことなく苦しんでいる様子。

潤一「あ、あのぅ」

以下略



18:ちぢれ[sage]
2012/05/03(木) 23:53:56.10 ID:yoGXwZnsP
静姫「……っ!?」

 少女はようやく状況を飲み込めたのか、あわてて俺の上から起き上がった。

潤一「う……」
以下略



19:ちぢれ[sage]
2012/05/03(木) 23:58:40.09 ID:yoGXwZnsP
 少女は、俺より2、3歳は年下だろうか。
 下はジャージで、上は薄手のパーカーを羽織ったラフな恰好だ。

 初めは彼女も何が起こったのか理解していなかったみたいだが、今は少し落ち着いて申し訳なさそうに目を落としている。

以下略



20:ちぢれ[sage]
2012/05/03(木) 23:59:55.36 ID:yoGXwZnsP
静姫「……」

 俺があやまると、少女はジッと俺の顔を覗き込んできた。

潤一「……ん? ど、どうした」
以下略



21:ちぢれ[sage]
2012/05/04(金) 00:02:21.91 ID:5To1Tuv6P
静姫「海外旅行には行ったことありますよね?」

潤一「え? べつにないけど」

 何だこれ。何かの占いか?
以下略



76Res/61.70 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice