過去ログ - 青子「……」有珠「……ひどい」草十郎「……ごめん」
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2012/05/05(土) 01:13:45.39 ID:PwLoTL370
排出物のにおいと、男の体臭がないまぜになったすさまじいほどの悪臭が、地下室に重く澱んでいた。
眼を閉じたところで、その臭いを忘れることはできない。
忘れることはできないが、いくらかでも耐え易くはなるようだった。
しかし、彼――草十郎が、壁に背をもたせかけ、眼を閉じて座しているのは、決して悪臭に耐えるためではなかった。
それは、山奥で育てられた彼の、一種の習性のようなものであった。
実際、屎尿桶のアンモニア臭も、耐えなければならないというほどには気にならなかった。
耐えるということを言うなら、草十郎は生まれてこの方それ以上は考えられないほどの峻烈な運命に耐えてきたし
その運命はこれからも耐え続けていくことを彼に要求しているのだ。
いまさら、地下室の饐えたの臭気ぐらいのことで、なにを耐えなければならないと言うのか。
まあ、彼にはそんな自覚は露ほどもないのだが――――。
――運命、か……。
草十郎のかさついた唇にフッと苦笑が浮かんだ。
運命とは聞こえのいい言葉だ。
なにか崇高で、悲劇的な響きさえ含んでいる。
実際には、それは、運命というより、むしろ体質と呼んだ方が相応しいようなことなのだが。
――人間というやつは、自分を言葉で飾りたてずにはいられない動物らしい。
草十郎の苦笑は、ますます皮肉な、歪んだものになった。
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