320:空っぽの境界[saga]
2013/02/08(金) 23:39:37.69 ID:rTuRyC5r0
「私は――――マドカだよ」
色だけは暖かな街灯に照らされながら、彼女は懐かしい微笑みを返す。
降り積もる雪のように白く薄いドレスを纏い、傘も差していない彼女は、果たして寒さを感じないのだろうか。
「あなたは、どうしてここにいるの」
どうしてだろうね、と彼女は言う。
白い羽根のようにふわふわと墜ちる雪を、あるいはただの闇を、彼女はぼう、と見つめている。
ほむらは単純な好奇心から尋ねた。
「あなたは、誰なの」
「私は私だよ。鹿目まどかでもなく円環の理でもなく、そこにあったはずの空白の中に存在する私」
……かつて彼女は言った。
あなた達の祈りを、絶望で終わらせたりしない。
あなた達は、誰も呪わない、祟らない。
因果は全て、私が受け止める。
だからお願い。
最後まで、自分を信じて。
彼女の祈りは、彼女自身の存在を概念と昇華することで叶えられた。―――かつて存在していた鹿目まどかは、世界を覆す願いの果てに、世界を支える現象へと転化したのだ。
そうして鹿目まどかという存在は、世界から消えた。
「そう。あなたのことは、まどかと、そう呼べばいいのかしら」
「うん。ほむらちゃんが呼んでくれるなら、やっぱりそうしてほしいな」
かつてここにいた友の名前。
目の前にいる彼女は、果たしてまどかの容姿をしているが、その人格はまどかのものではない。
一目見て、ほむらはすぐに気が付いた。
「何年振りかしら、こうしてまどかと話すのは。―――いえ、あなたとはいつも話していたような気がするけど」
「そうかもしれないね。私はどこにもいなくて、どこにでもいるから」
彼女はあっさりとそう言った。
…
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