147:猫宮[saga]
2013/01/21(月) 18:53:25.17 ID:qJfGpQK/0
「お待たせ、梓ちゃん」
台所の扉が開いて、明るくて優しい声が響く。
勿論、憂ちゃんだった。
私は出来る限りの笑顔を向けて、憂ちゃんの言葉に応じる。
「ううん、別に待ってないよ、憂ちゃん。
準備は終わった?」
「うん、終わったよ、梓ちゃん。
居候してる身なのに、洗い物を任せちゃってごめんね」
「そんなの気にしないで。
これはいつも美味しい朝ごはんを作ってくれる憂ちゃんへのお礼だよ。
たまには私にも手伝わせてよ」
「えへへ、ありがとう、梓ちゃん」
「ねえ、それよりも、憂ちゃん……」
「何?」
「本当に準備は万端なの?」
「そのつもりだけど……」
「髪は結ばないの?」
「えっ……、あっ!」
私に指摘されて自分の髪を触ってから、憂ちゃんが驚いた表情を見せた。
普段みたいに髪を結んでない事に、私が指摘するまで気付いてなかったみたい。
憂ちゃんらしくないミスだ。
憂ちゃんも緊張してるのかな?
それはそうだよね。緊張してないわけが無いよね。
だって、今日は憂ちゃんの大好きな唯さんの学園祭ライブの当日なんだから。
初めてのライブなんだから。
私だって緊張してる。
緊張してない様子の軽音楽部の皆さんの姿を見て、逆に私が緊張してしまってる。
ライブをするのは私じゃないのに、すっごくドキドキしてる。
気を抜くと心臓が喉から出ちゃいそうなくらいに……。
私ですらそうなんだから、憂ちゃんが感じてる緊張は私なんか比較にならないと思う。
「居間のソファーに座ってちょっと待ってて、憂ちゃん」
洗い物が終わった手をタオルで拭いてから、私は台所から出て自分の部屋に飛び込んだ。
結構前に私が使ってたリボンをタンスの中から出して戻り、居間のソファーに座る憂ちゃんの後ろに回る。
「お古のリボンでちょっと悪いんだけどね……」
言いながら、私は憂ちゃんの髪を結んでいく。
憂ちゃんの事だし遠慮するかも、って思っていたけど、憂ちゃんは何も言わずに静かに頷いてくれた。
憂ちゃんも私の気持ちに気付いてくれてるのかもしれない。
残り少ない時間、憂ちゃんが私にしてくれたみたいに、
私も憂ちゃんに何かをしてあげたいんだって気持ちを……。
でも……。
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