過去ログ - 恒一「『ある年』の3年3組の追憶」
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100:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 22:24:16.33 ID:4DOG5YTr0

再び、意識が戻った。
と、手の自由が効かないことに気づいた。何かに縛り付けられている?
一瞬「離せ!」と抵抗しようとしたが、その必要が無いことがすぐにわかった。
あたしは、両腕を辻井と柿沼の首を抱えるような形で、半ば二人に担がれていた。

「目が覚めました?」

この声は辻井か。

「あ、あぁ・・・あたしはまだ生きてるのか?」

「渡辺さんは大丈夫です。でも川堀が・・・」

そうか、あいつは助からなかったのか。
既に私の視線に火の手は上がっていない。
すると、もう屋敷を脱出した後なのか?
それまでの熱さから一転して、冷たい雨が全身に染み渡っていく。
ここはもう屋外か?今度こそ、窮地は脱出したみたいだ。

「おまえらが、あたしを助けてくれたのか・・・
ふっ・・・なかなかできるじゃんか?ありがとな・・・」

辻井と柿沼の二人を見た目だけで、ひ弱だと内心侮っていた、
あたしの目が節穴だったようだ。
もっと二人を信じてあげれば、あたしがこんな大ケガすることも、
川堀が死ぬこともなかったかもしれない。
心の中で、後悔の念がこみ上げてくる。

視線を向けると、青い車が見える。
あれはさっき、和久井を運んだ千曳先生のマイカーだ。
肝心の千曳先生はここにはいない。
だが、車の脇には、勅使河原、望月、猿田、それに松子がいた。
良かった、松子は無事だったのか。
緊張の糸が切れたのか、あたしはまた意識を失いかけた。

「珊ちゃん、しっかり!」

松子の悲鳴声が聞こえる。
崩れ落ちそうになったあたしを、松子と望月がなんとか支えてくれた。
ここまであたしを運んできた辻井と柿沼も、疲労が限界まで来ていたはずだ。
視線を下に向けると、腹から血が出ている。
ここに来るまで、血が少しずつ躰から失われていたということか?
それに気づいた皆は、あたしを車の中に収納した。
中も、もう一人呻き声をあげながら横に伏している奴がいる。
前島だった。

「お前も無事だったか・・・、あたしが助けに来てやれず、悪かったな」

声になったかどうかは、わからない。
血が出ている部分を、備え付けの包帯で巻いてもらったおかげなのか、
躰の中を突き破るような痛みはある程度治まってきた。
天井が低い。立ち上がったらぶつかりそうなほど、近い場所にある。
車の中だから、当たり前だ。

ふと、キョウコはどうなったのか、不安になり始めた。
窓から落ちた小椋の生死も気になって仕方ない。
そういや、あたしのすぐ前の席にいる、
この合宿を事実上仕切っている赤沢とか、どうしたのだろうか?
合宿に来なかった和江は?悠は?それにナオは?

「やれやれ、あたしも心配性だな・・・
それより、自分の躰をもっと心配しろよ・・・」

自虐的な思いにかられながら、あたしは再び低い天井を見つめた。



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