過去ログ - 恒一「『ある年』の3年3組の追憶」
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139:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 22:55:02.72 ID:4DOG5YTr0

数日後、悲しみがまだ完全に癒えたわけではないけれど、
ある程度気力を取り戻した私は、
松子ちゃんと一緒に、幸子ちゃんのお見舞いに行った。
いつも明るい松子ちゃんも、親友だった小椋さんを失い、
立ち直るのには少し時間がかかったという。

合宿の少し前に会った時、信じられないほどげっそりやつれていた幸子ちゃんは、
しばらく見ないうちにだいぶ血色が良くなり、
体力も、だいぶ入院前まで戻ってきたという。

「私ね。最近どうしてこんなに何日も、入院しているのか、
分からなくなる時がたまにあるの」

松子ちゃんの生還を喜んだ後、幸子ちゃんはそう言った。
確かに、夏休みの少し前から、幸子ちゃんは一ヶ月近くも入院しているけど、
考えてみれば、どうして長引いたのか私も思い出せなかった。
ちょうどこの頃、久保寺先生が亡くなって、
千曳先生が代理になったけど、なにか関係しているのだろうか・・・?

「それよりも、あの子を見た?赤ちゃんってすごく可愛いわよね」

「うんうん、わかるわかる。お母さんが美人だもん。
きっと将来、可愛くて綺麗な子になるよ。間違いない!」

幸子ちゃんと松子ちゃんが話題にしているのは、
すぐ向かいのベッドで生まれて間もない我が子を抱いている、
若くて美人な女性の姿だった。

その人は、合宿で命を落とした杉浦さんのお姉さんだった。
顔つきも全然違うので最初は信じられなかったが、
言われてみれば、確かにどこか面影がなくもない。

杉浦さんのお姉さんがこの病院に運ばれたのは、
合宿の事件が起きた翌々日のことだった。
その数日前に、相部屋だったお婆さんが退院したため、
それこそ、ほとんど入れ替わり同然だったらしい。
妹の死でショックを受けていた彼女は、歩いている途中に陣痛を起こし、
ちょうど通りかかったこの学校の生徒に助けられて、搬送されたと言う。
その翌日、杉浦さんのお姉さんは無事に元気な女の子を出産した。
赤ちゃんは生まれて間もないため、まだ赤くて皺だらけだけど、
泣き声も人一倍大きく、さっきまでお乳をたっぷり飲んで、
今は母親に抱かれてぐっすり眠っている。

「私ね、多佳子が死んだ時、幸せなんて、どこにもないんだと思って絶望したの。
無理して、ポジティブに振る舞おうとしても、全然笑顔が作れなくて。
でも、病院に運ばれる途中で、夢枕って言っていいのかな?
意識が薄れ行く中で、あの子が現れて、少しぎこちない笑顔でこう言ったの。
『私がいなくても、姉さんはいつも明るく前向きな姉さんのままでいて。
私が、姉さんの赤ちゃんを絶対守ってみせるから』って」

「「「・・・」」」

杉浦さんのお姉さんの話を、私たち三人は
呼吸が止まるくらい真剣な眼差しで、じっと聞いていた。

「目が覚めた時、私、だいぶ泣いちゃってたみたい。例え夢だとしても、
多佳子が、私とこの子を守ってくれると言ってくれて、本当に嬉しかったわ。
もしかしたら、この子は多佳子の生まれ変わりかもしれないわね・・・」

そう言う彼女の瞳から、一筋の滴がこぼれ落ちた。



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