過去ログ - 恒一「『ある年』の3年3組の追憶」
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145:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 22:57:59.41 ID:4DOG5YTr0
その二日後、私は図書館で辻井君とばったり再会した。
図書館がもうすぐ盆休みでしばらく閉まってしまうため、
今のうちに本をいくつか借りておこうと思ったのだ。
たぶん、辻井君も同じだろう。
「や、やぁ・・・柿沼さん」
「辻井君・・・あれから元気にしてる?」
私は何を馬鹿なこと言っているのだろう。元気なわけがないに決まってる。
と、
「それよりも、あの・・・先月のこと、本当にゴメン・・・
柿沼さんの気持ちも全然知らないで・・・」
辻井君が深々と頭を下げた。
「そんな・・・私こそ、辻井君にあんな酷いこと言って・・・」
私も謝ると、辻井君は更に詫びて、それに応えるかのように、またも私が・・・
このままでは、いつまで経っても埒があかない。そうこうしているうちに、
「そうだ、ぼくはこれから他にも用事があるんだ。
ここの図書館は八日後になれば、また開館するからその時にまたゆっくり話さない?
柿沼さんのことだから、一週間経てば借りた本を全部読み終わっちゃうでしょ?」
「うん・・・わかったわ。じゃあ、来週火曜日の10時半にまたここで」
「ありがとう。こっちも呼び止めてごめんね。それじゃ」
辻井君は足早に、図書館を出て行った。
果たして、お盆が明け、図書館で辻井君と落ち合う日になった。
先に待っていた私を見て、駆けつけた辻井君は目を丸くした。
「柿沼さん、その髪は・・・」
「どう?少しイメチェンしてみたんだけど」
「・・・あぁ、柿沼さん。とっても綺麗だよ。まるで、天女みたいだ・・・」
少し間があった後、辻井君のその言葉に、私はここが図書館であることも忘れて、
「ふぇっ!?」と素っ頓狂な声を上げてしまった。
天女だなんてそんな・・・
文学少年の辻井君らしい例えなのかもしれないけど、やっぱり恥ずかしい。
私はひどいくせっ毛で、雨の日になるとぼわっとしてしまうため、
お手入れするだけでも一苦労だ。
そのため、あまり目立たないようにするため三つ編みにしていたけど、
そのせいでただでさえ目立たない私は、余計に地味な印象を与えてしまった。
あの事件を引き摺らないためにも、そして過去の自分と訣別する意味を込めて、
私は思い切って、ウェーブヘアーにしてみた。
校則に引っかからない程度の大人しめのものだけど。
「辻井君・・・そんな気恥ずかしいこと、よく言えるね・・・」
「い、いや。だって柿沼さんが見間違えるくらい美人になってるんだもの。
惚れたというか、惚れ直したというか・・・あわわ」
そんな「惚れた」なんて、顔から火が出るくらい恥ずかしくなってしまう。
「と、とにかく立ち話もなんだし、まずは本を返そう。ね?」
司書の人にお互いの本を返した時も、
私たち二人は、顔が完熟トマトのように真っ赤っかだったに違いない。
いつも利用しているから、私たちとは顔なじみであり、
彼女は怪訝そうな顔をしていた。
新しい本を借りた私たちは、この場の居続けることに耐えられず、
逃げるように図書館を出てしまった。
まだ空いていてほとんど人がいなかったから良かったけど、
誰かに見られたら、たまったものではない。
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