過去ログ - 恒一「『ある年』の3年3組の追憶」
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144:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 22:57:29.56 ID:4DOG5YTr0
ここからは記憶がところどころ飛んでしまったけれど、
合宿所が例の火事になると、私は松子ちゃんともはぐれ、
ひたすら出口を目指して逃げ出した。
けど、玄関で私たちは落下したシャンデリアの下敷きとなってしまう。
身動きすらとれずパニックしかけた私は、圧迫された力が急に消えていくのを感じた。
目の前に映る青年・・・眼鏡がなかったので一瞬分からなかったけど、
それは辻井君だった。
「柿沼さん、今助けるからね・・・ぐっ・・・!」
辻井君が崩れたシャンデリアの一部を持ち上げてくれたおかげで、
私はどうにか抜け出すことができた。
「辻井君・・・私・・・、恐かったよぉ・・・!」
助けられた今になって、間近まで迫った死の恐怖による緊張の糸が切れた私は、
辻井君に抱きついて、子供のように泣きじゃくった。
涙や鼻水が一向に止まらず、しゃっくりすらあげる始末だった。
あまりにもみっともない自分の姿に、我ながら情けなくなってくる。
「か、柿沼さん!今はそれより、ここから早く出なきゃ。それに渡辺さんも!」
そうだ。現にこの状態でも、まだ危機を脱出したわけではない。
まだ完全には止まっていない鼻をすすりながら、
私と辻井君は協力して、シャンデリアに潰されたままの渡辺さんを救い出した。
渡辺さんはぐったりとしまま動かない。
でも息はしているので、まだ助かる!
女子の中でもかなり背の高い彼女を、辻井君と二人がかりで持ち上げる。
渡辺さんが重いわけではないが、非力な私では引き摺るように運ぶのがやっとだった。
そうだ、もう一人川堀君もいたはず。彼はどうしたのか。
辻井君に尋ねると、首を微かに振りながら、
「あいつは、ダメだった・・・」
悔しそうに声を上げた。玄関まで辿り着く。
背中を柱に潰されて、うつぶせになったまま動かない川堀君の姿があった。
私は直視できず、そのまま燃え広がる合宿所を後にした。
フライパンの上にいるような燃えさかる炎の熱さから一転して、
外に出ると冷たい雨が私たちの体力をじわじわと奪っていく。
千曳先生の青い車に無事到着すると、
渡辺さんを支えていた力が急に抜け、彼女を落としそうになってしまう。
それを助けた望月君をはじめ、その周りには無事逃げ延びたクラスのみんながいた。
松子ちゃんも無事だった。やっと得られた友達が助かって本当に良かった。
私は、松子ちゃんとお互いの生還を、手を取り合って喜んだ。
けど、それからは絶望的な知らせが次々に舞い込んできた。
風見君が、小椋さんが、物言わぬ冷たい躰となって、無言の帰還を果たした。
勅使河原君や松子ちゃんの、あまりに悲痛な叫び声が胸を締め付ける。
長らくぼっちだった私は、交流があったのは辻井君と松子ちゃんだけである。
皮肉にも友達が少なかったせいで、
こうした友の死という辛い出来事を私は味わうことはなかった。
けど、私は少しも運が良かったとは思わなかった。
かえってそれが妙な疎外感を生み、
この場から逃げたくなるような辛さを覚えたからであった。
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