過去ログ - 恒一「『ある年』の3年3組の追憶」
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17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 21:15:51.63 ID:4DOG5YTr0

◆No.8  Tomohiko Kazami

ゆかりが、死んだ。

信じられなかった。
たった今、目の前を足早に通り過ぎたゆかりが、もういない。
これは夢だ。恐ろしい悪夢に違いない。
頬を何度、引っぱたいても痛みが残る。

事件が起こったのは、C号館の2階から1階にかけての西階段。
普通なら、下駄箱に近い東階段を下りていくはずなのに、
その時だけなぜかゆかりは、西階段を使ったのだという。
そして、その死因は聞きたくもなかった。
メンタルの弱い僕にとって、それは想像を絶するものだったからだ。

現場に近づいてはいけないという宮本先生の厳重な警備が敷かれ、
僕たちであってもその場には近づけなかった。
ただ階段から落ちたのではない、
滑り落ちた拍子に、持っていた傘の先端が喉を突き破ったなんて。
だから、これほどまでに近寄らせないようにしたのである。

そのあまりに酷たらしい最期を聞いて、
僕は口を両手で塞ぎ、沸き上がってくる吐き気をなんとか堪えた。
その気持ち悪さは今なお胸の中にくすぶっている。
なぜ、ゆかりがあんな死に方をしなければいけなかったのか。
なぜ、こんな時に限って悪いことが続けざまに起こったのか。
なぜだ、なぜなんだ・・・!

校庭から、ゆかりを運ぶ救急車のサイレンがけたたましく鳴り響き、
周りがざわめいたり、すすり泣く声が聞こえる中、
僕は委員長であることも忘れて、頭を抱えながら机に突っ伏した。

こんなの嘘だ。嘘に決まっている!
まだ僕は、その現実を受け入れられずにいた。

翌日、3年3組そのものが、お通夜状態だった。
榊原君の姿が見えないのは、あの現場を見てしまい、
持病の肺のパンクを起こしかけたから、という話を後で聞いた。

「短い間でしたが、クラスで共に学んだ桜木さんのご冥福をお祈りしましょう」

そう言いながら、久保寺先生はどこか上の空で、
どこか棒読みっぽく、心ここにあらずと言った状態だった。
先生の目は、疲れの色がありありと見えていた。

「なお、葬式は近親者だけで執り行われますので、
告別式への参列は予定しておりません」

なんだって。告別式にすら行けないのか?
ホームルームが終わった後、僕は先生にその理由を尋ねた。
先生によると、

「今回の事故では、桜木さんのお母様も一緒に亡くなられました。
お母様の方は関係者も多い上に、合同での葬儀となると、
どうしても規模が大きくなってしまうために、このような形となったのです。
お母様の妹さんも事故で予断を許さない状況ですし、
奥様と娘さんをお父様の悲しみを考えますと、今はそっとしておいて下さい」

先生の言葉に頭では納得しても、心の中ではどうしても納得いかなかった。
最後のお別れすら許されないのか?
このまま、終わらせるのだけはどうしても嫌だった。


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