過去ログ - 恒一「『ある年』の3年3組の追憶」
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38:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 21:34:01.22 ID:4DOG5YTr0

◆Interlude II  Mr. Miyamoto

6月も終わりに近づき、その日は梅雨の時期にしては珍しく、
晴れ間が広がる心地よい天気だった。
周りを山に囲まれた盆地にある夜見山は、
どんよりとした曇り空になることが多く、こうした晴れの日は貴重だ。
もうすぐ6時限目も終わり、掃除が始まる頃だ。
校内の見回りを一段落付け、0号館からB号館へ戻ろうとしたその時、
二つの人影が裏門をくぐるのが見えた。
こんな時間に外へ出歩くとは、全くもってけしからん。

「こらあっ!この時間にお前ら、どこへ行って・・・」

叱り飛ばそうと私が駆け寄ると、校外へ抜け出した二人の正体がわかった。
あれは3年3組の見崎と榊原・・・
向こうも気づいたのか、榊原が軽く頭を下げる。
たしか、今の3組でこの二人は『いないもの』にされているはずだった。

「大変だな、おまえらも。
・・・しかしまあ、校外に出るのはあまり感心できんな。ほどほどにしとけよ」

「すみません。これからは少し気をつけます」

そう言って榊原が会釈すると、見崎も軽く一礼して、
二人はB号室の校舎に、吸い込まれるように入っていった。

「まったく、最近の中学生は昼間からデートとは、時代も変わったものだな」

私はそう独り言を呟いて、肩をすくめた。

私がこうして、3組の事情を色々知っているのは、
この学校に長年勤めているからというだけではない。
私は去年の3年3組の担任だったからだ。
おととしの年度末、私が来年度の3組の担任になるという人事が決まると、
その年の3組の担任だった先生から、このクラスの内情を色々伝えられた。
にわかには信じがたい。
しかしこの年の3組関係者が、次々と亡くなった実情を知っているため、
私は覚悟してそれに臨むことを決めた。

が、昨年度初日にその心配は杞憂に終わった。
机や椅子が、一つ不足しているという事態が起こらなかったからだ。
つまり、私の年は災厄が起こらない『ない年』だったのである。
私と、去年の3年3組は本当に運が良かったということだろう。

そう思うと、『ある年』の3年3組の担任である
一昨年度の三神先生と、今年度の久保寺先生の苦労が
並大抵のものではないことが、尚更伝わってくる。
私もできうる限りの協力はしていきたいが、
自分だけ『ない年』で難を逃れたことが申し訳なく思ってしまう。

その久保寺先生だが、ここ数日前から、様子が明らかにおかしい。
元々浮かない表情をしていることが多い彼だが、
最近はとみに目線が定かでなかったり、
職員室で一人、ぶつぶつ呟いている光景をよく目にする。
先日も、クラスの高林が突然、心臓発作を起こして亡くなっており、
久保寺先生のストレスが、相当溜まっていることは間違いないだろう。



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