過去ログ - 恒一「『ある年』の3年3組の追憶」
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5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 21:05:13.30 ID:4DOG5YTr0
当たり障りの無い言葉を選ぶのに必死で話が進まない私と風見君に対して、
赤沢さんはその後もズバズバと質問攻めにした。
赤沢さんとは、去年同じクラスになってからの大切な親友だ。
体育祭の時に一緒に撮ってもらった写真の笑顔のように、
赤沢さんは本当は心根の優しい人だってことは、友人の私ならよくわかるけど、
口調が激しいのでしばしば誤解されやすい。
彼女の積極的な姿勢は見習いたいけど、
もう少し角が取れればいいのになと、時々思うことがある。
そして、かねてからの打ち合わせ通り、
風見君が、榊原君と握手する用意を始めた。
『死者』は手が冷たいからすぐ見分けが付く・・・
そんな単純な方法で分かるわけもない迷信だけど、
わらにもすがりたい私たちは、それすら信じざるを得なくなった。
「えっと、その・・・」
だが、やはり風見君も怖いのだろう。どうしてもためらってしまう。
私だって、死者かもしれない人間に触れるのには躊躇するだろう。
その時、赤沢さんが一瞬風見君を睨み付けた後、
榊原君に笑顔を向けて、こう言った。
「榊原・・・恒一くんよね。恒一くんって呼んでいい?」
「えっ、どうぞ」
「これからもよろしくね」
「こちらこそ、よろしく」
手を伸ばした赤沢さんと、それに答える榊原君の握手。
この数秒にも満たない時間が、どれだけ長く感じられただろう?
私と風見君は、固唾をのんで二人を見守るしかなかった。
やがて手が離れて、赤沢さんは
「恒一くん、本当に夜見山に住んだこと無い?」
「それは無いと思うよ・・」
と榊原君とのやり取りを再会した。
赤沢さんの表情に曇りが無かったということは、
彼の手は死人のように冷たくは無かったのだろう。
私たちは思わず、ほっと安堵のため息をついた。
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