過去ログ - 恒一「『ある年』の3年3組の追憶」
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53:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 21:46:22.35 ID:4DOG5YTr0
◆No.6 Yumi Ogura
兄貴が死んだのは、7月も終わりに近づいた、ある雨の日のことである。
彩と別れた時にはまだ小雨だった天気も、次第に本降りとなっている。
もう走って帰っても、どのみち、びしょぬれになることには変わりない。
そう思ったあたしは早々に諦め、彩との別れで重い足取りのまま、
家のすぐ近くまで戻ってきた。
ふと目の前の光景を疑った。
二階の窓に、ショベルカーが突っ込んでいる。
一瞬、何が起きたのかわからなった。
手の力が抜け、カバンが濡れた地面に落ちる。
いや、今はそんなことなんてどうでもいい。
ショベルカーが突っ込んだあの部屋には・・・!
「兄貴・・・!」
嫌な予感がした。
カバンも置き捨てたまま、家に入ったあたしを待っていたのは、
電話機の前で、呆然としたまま動かないお母さんだった。
「由美・・・あの子が、敦志が・・・」
お母さんが全て言い終わる前に、
あたしは家具や食器が散乱して足の踏み場もない廊下を何とか通り抜け、
焦る気持ちを懸命に抑えて二階へ続く階段を上った。
まだ死んだと決まったわけじゃない。
そう自分に言い聞かせるのも空しく、部屋はめちゃくちゃに荒らされていた。
そして、ショベルカーの機体の真下に重なるように、兄貴の右手が見えた。
パソコンのマウスを離さないまま、その手は血にまみれていた。
右手以外は、その姿を確認することができない。
あたしは全身から力が抜け、ただ座り込むことしかできなかった。
更に激しさを増す雨の音と、どこからか聞こえてくる救急車やパトカーのサイレン、
そして目の前の信じがたき惨状しか、五感で感じられるものはなかった。
兄貴は救急車が到着するや否や、速攻で夕見ヶ丘の市立病院へ運ばれた。
我が家があの有様なので、あたしとお母さん、
知らせを聞いて駆けつけたお父さんを加えた三人で、
共に病院へ向かうこととなった。
ふと、車の中であたしは昔の兄貴のことを思い出した。
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