過去ログ - 恒一「『ある年』の3年3組の追憶」
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54:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 21:47:14.15 ID:4DOG5YTr0
今でもクラスの中で一番背の低いあたしだけど、
生まれた時はお母さんが早産だった未熟児で、
しばらくは保育器に入れられたほど虚弱だったらしい。
そのせいかわからないけど、幼い頃から同年代の子より一回り小さかったあたしは、
いつも周りに後れを取って、時々いじめられることもあった。
そんなあたしを昔から守ってくれたのが兄貴だった。
4歳違いの兄貴は、子供の頃から運動も勉強も得意で、
あたしに何かあるとすぐ助けに来てくれる、まさにヒーローのような存在だった。
あたしがお兄ちゃん子になったのも、ある意味自然の成り行きだったのかもしれない。
小学校の高学年になった頃からは、
いつまでも兄貴に頼ってばかりいたらダメだと思うようになったあたしは、
兄貴の力や助けを借りずに、一人で学校生活を頑張って過ごせるように努めてきた。
周りから弱々しく思われないようにするため、強気な姿勢を見せることで、
少し見栄を張ってしまうこともあったが、何とかうまくいくものである。
こうして今では、いじめられたりすることもなく、
学校でもみんなの輪の中にに溶け込めるようになった。
ところが、それに反比例するかのように
兄貴の人生は、次第に暗い影を落とすようになってきた。
兄貴は夜見山から少し離れた進学校の高校に入学したが、
周りは自分よりレベルの高い生徒ばかりで、徐々に引き離されてしまったと言う。
昔から成績優秀で親からの期待も並大抵のものではなく、
また自分でも頭が良いことを、自分の長所と自負していた節がある。
それまで苦労もほとんど味わったことが無かった分、
遅すぎた初めての挫折は、兄貴に相当なダメージを与えたのだろう。
せめて大学はちゃんと入れるよう頑張ろうとした兄貴だったが、
本命はおろか、滑り止めさえ全部落ちてしまい、
兄貴はとうとう浪人になってしまった。
そして希望を失った兄貴は、就職も予備校通いもせず、
部屋に籠もりきったまま、パソコンばかりいじる生活になってしまった。
巷でよく言われる家庭内暴力などが無かったのはせめてもの幸いだが、
トイレと数日に一日だけの風呂以外は、部屋から出ることもせず、
ゴミで散らかり放題の部屋に入ろうとすれば、怒鳴り声を上げて激しく拒絶する兄貴。
どうしてこうなってしまったのだろう。
昔の頼れる優しい兄貴はどこへいってしまったのか?
病院へ辿り着いたあたし達にかまわず、
兄貴を運んだ担架は瞬く間に、手術室に吸い込まれるように去って行く。
ずっと手術室の前にいるわけにもいかないので、
あたし達はロビーへ戻ろうとしたその時、
救急入口から、兄貴と同じように担架で運ばれていく患者の姿が三人見られた。
「危ないですから、どいて下さい!」
救急隊員の声にあたしはさっと廊下の壁によけたが、
運ばれる患者の一人を見て、あたしは、はっと息を呑んだ。
「彩・・・?どうして、彩が!?」
一瞬、見ただけである。
だけど、頭からおびただしい血を流しながら、苦しそうに荒い息を吐いている、
ショートカットのその子は間違いなく彩だった。
なぜ、彩はさっき夜見山から出たばかりなのに?
まさか・・・!?
頭が混乱してきた。兄貴が事故に遭って、それに続いて彩も?
手術はまだ終わりそうにない。疲れがどっと溜まってきたのか、
あたしはロビーの椅子に倒れ込むと、そのまま意識が遠のいていった。
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