過去ログ - 恒一「『ある年』の3年3組の追憶」
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56:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 21:48:23.88 ID:4DOG5YTr0
ふと、彩のことを思い出す。
彩はどうなったのか?まさか死んでなんかないよね?
彩なら無事だ。いや、そうに決まっている!
一階に戻ったあたしは、受付に半狂乱になって彩の安否を確かめようとした。
お父さんたちは困惑するスタッフに詫びを入れ、あたしを叱りつけた。
結局あたしたちは、一旦家に戻ることとなった。
ショベルカーは撤去されたが、
二階が破壊され、一階も中が散乱した変わり果てた我が家で、
一睡することなど、できるわけがなかった。
翌日、沈鬱な気持ちを抱えたまま再び病院を訪れたあたし達だったけれど、
あたしは陰気な霊安室をすぐに出て、彩が治療を受けている部屋へ向かった。
死んだ兄貴を悲しんだって、兄貴が生き返るわけでもない。
それより、一刻も早く彩の無事を確かめたかった。
彩の病室には医師が待機していた。予断も許さない状況だという。
自分が患者の親友だということを必死に説明して、
あたしは彩の元へ駆け寄った。
「彩・・・あたしだよ、由美だよ。ね、目を覚まして・・・彩」
頭には包帯が何重にも巻かれて、口には人工呼吸器が、
そして躰には何本もコードのようなものが繋がれている。
ふと、彩の口元が開きかけた。あたしに気づいている!?
首をかすかに揺らし、一瞬だけど彩のまぶたが開いた。
「彩!あたしがわかる?見える?あたしだよ。ねぇ、返事してよ!彩!」
繰り返し、彩に必死に言葉をかけるあたしに、彩は頷いたように見えた。
だが、その後まぶたを閉じると、モニターの心拍数が急激に低下し始めた。
あたしは、体中から血の気が引くのを感じた。
「嘘、やめてよ。お願いだから、彩まで連れて行かないでよぉ!」
私の願いも空しく、心拍数はどんどん減り続けていく。そして、
『ピーーーー』という無機質な音と共に、モニターの心拍数は0を表示した。
「彩、あやぁ・・・ううっ・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ここが病室であることも忘れて、
あたしは、地の底まで届くような叫び声を上げながら泣いた。
最後の最後に、彩は力を振り絞ってあたしに答えてくれたのだろうか?
そして、最後の力を使い果たして、
命の炎を燃やし尽くしてしまったのだろうか?
彩の死に顔は、どこか笑みを浮かべた安らかなものだった。
だが生の色を感じさせない、まるで彩の姿をした人形のように感じられた。
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