過去ログ - 恒一「『ある年』の3年3組の追憶」
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70:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 22:01:16.69 ID:4DOG5YTr0
「王子ー、着いたぞな!」
猿田の声に、はっと意識が戻った。
長いことぼんやり考えている内に、目的地の咲谷記念館に到着した。
レンガ造りの門を入ると、そこには森の中を切り開くようにしてそびえ立つ
巨大な洋館が建っていた。
そびえ立つと言っても、二階建てでそれほど高くはないが、
包み込むように横に広がっているため、巨大でそして威圧感があり、
実際以上に大きく感じられる。
「しっかし、ガイじゃのう!」
猿田が少々オーバーに感嘆の言葉をあげたが、誰も反応を示してこない。
それどころか、すぐ隣にいた小椋さんにキッと睨まれ、
猿田は決まりが悪そうに、うつむいてしまった。
「そ、そうだ。写真を撮ろうよ。
中学旅行の最後の夏休みなんだから・・・ね?」
望月君がこの重々しい空気を何とかしようと、記念写真を撮ることを提案した。
さすがにこれは反対の声もなく、
一枚目を望月君、二枚目が勅使河原君、そして三枚目を前島君が撮った。
僕と猿田は咲谷記念館の立て札をバックに、真正面に映ることとなった。
ふと違和感を覚えた。
恐らくみんな浮かない表情をしているが、
隣の辻井君はその中でも特にしょげかえっている。
写真ができたら見ようと思うが、これではまるでお通夜のようだ。
違和感の正体はすぐにわかった。
いつも親しくしているはずの柿沼さんと一緒じゃない。
考えてみれば、今日の辻井君と柿沼さんはバスでも歩いている最中でも
ずっと別々に行動しており、一度も会話しているのを見たことがない。
写真を撮り終えた後、猿田に
「あの二人、なにかあったの?」
と尋ねると、
「・・・まあ、色々あってのう。部屋に着いたら、後で話すけん」
と小声で返事した。
建物に入ると、管理人夫妻が来て、奥さんが建物の簡単な説明をした。
ご主人はぎすぎすとやせ細って、幽霊じゃないかと思うくらい顔色が悪く、
奥さんはそれに不釣り合いなほど、ぺらぺらよくしゃべる、
恰幅の良いおばさんという感じであったが、
こちらは人相の悪いご主人と違って、あまり印象に残らなかった。
案内された部屋は、ホテルのようになかなか豪華な作りである。
老朽化が進んでいるためか、ところどころ年季が入っている。
が、あまり居心地の良い感じはしなかった。
夕方とはいえ、あまりにも薄暗く、
鈍い赤紫色や薄茶色のカラーリングが多い壁や家具のせいで、
どこか落ち着かない。
何よりこうした古い洋館は、去年の修学旅行で遊びに行った
遊園地のお化け屋敷を彷彿させて、正直怖かった。
いかんいかん。怖がってばかりじゃダメだと思って頬を叩いたが、
やっぱり気分は晴れなかった。
明日は神社にお参りするため、今日は早めに休む予定である。
あと一ヶ月もすればお彼岸になるせいか、
また、周りが山に囲まれているだけあって、
陽が落ちるのも早かった。
夜の帳が降りてくる。
いつもと変わらぬ夜なのに、どことなく不吉なものを僕は感じていた。
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