過去ログ - 恒一「『ある年』の3年3組の追憶」
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71:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 22:01:46.88 ID:4DOG5YTr0
◆No.22 Manabu Maejima
その晩の食事ほど、味気ないものはなかった。
管理人さんが持ってきた料理が、まずかったわけではない。
それなりに豪勢だし、これが普段だったらおかわりだっていけたかもしれない。
千曳先生は、
「少し味付けが濃いな」
「ここの焼き具合が今ひとつだ」
と、なぜか料理評論家のように、いちいち不満点を挙げては、
管理人さんに聞かれるのを心配したのか、三神先生にたしなめられていたが。
誰も一言も喋らず、ただ静かにボソボソと食べ続けるという、
どこかの禅寺か修道院にありそうな奇妙な光景が浮かんだが、
そんな中、突然赤沢さんが口を開いた。
「ちょっといいでしょうか、先生?
この際ですから、言っておきたいことがあるんです」
「・・・そうね。どうぞ赤沢さん」
三神先生が戸惑いながら了承すると、
赤沢さんはまず自分が対策係として不手際があったことを謝った。
「何を突然」と皆がざわめくなか、赤沢さんはいきなり見崎さんを詰問し始めた。
「これまでの災いの数々については、見崎さん、あなたに責任の一端があると思うの。
見崎さんが決まり通りに『いないもの』の役割を全うしていれば、
誰も死なずに済んだはず・・・」
その言葉に、赤沢さんの子分的存在である杉浦さんと小椋さんが強く頷く。
同じ席の有田さんだけは戸惑っていたが。
榊原君が「どうして・・・」と言うと、
赤沢さんは一瞬驚いて、怒りを堪えるように口を噛みしめた。
続けて勅使河原も反論するが、赤沢さんはそれを遮るように話を進めた。
赤沢さんは見崎さんが『いないもの』の役目を徹底せず、
榊原君と接触したことを批判し、見崎さんに向かってこう言い放った。
「謝罪を。一言も私たちは見崎さんから謝罪の言葉を聞いてないの。
なのに、『いないもの』じゃなくなった途端、何事もなくなったみたいに・・・」
見崎さんがクラスの決めごとを中途半端に守らず、平然としていることに
赤沢さんは腹を立てているようだ。
まあ、たしかに見崎さんが榊原君と話しかけているのをまずいとは思っていたけど、
そこまで非難されるものかなと思う。
榊原君だって周りの忠告を聞かなかったし、
赤沢さんがなぜ見崎だけを責めるのか、少し不自然なものを感じる。
何というか、怒りでもなければ苛立ちとも少し違う、
別の感情が赤沢さんから見崎さんに向けられている、そう思えた。すると、
「不毛ね」
見崎さんが立ち上がり、まるで人形のように感情の一切こもっていない表情を浮かべ、
事務的で淡々としたしゃべり方で話を続けた。
「して、意味があるの?あるのならするけど」
どこまでも冷たく、同時に皮肉めいた言い方に、
皆は赤沢さんの反応に固唾をのんだ。
が、赤沢さんは動かず、「謝罪しなくてもいい」という榊原君の言葉を無視して、
見崎さんは赤沢さんに頭を下げた。
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