過去ログ - 恒一「『ある年』の3年3組の追憶」
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69:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 22:00:14.62 ID:4DOG5YTr0
先月の事件で僕が休み続けていた間も、
猿田と多々良さんは翌日にはもう部活に復帰して、練習も再開していた。
二人とも、僕よりずっと前の席だったし、
血しぶきが飛んだ時は、返り血を相当浴びている。
それに引き換え、自分はどうだろう。
後ろの方は割と安全だったけれど、
廊下に逃げ出すとすぐに、僕は腰が抜けて動けなくなってしまった。
当然、周りを心配する余裕すらなくなっている。
近くにいた勅使河原君や川堀君がクラスメイトを助けて戻ってきたのに対して、
自分はなんと情けなかったことか!
部活の練習にも中々腰を上げず、家でふさぎ込んでいた僕を
両親はあんな事件が起きたから仕方ないと、
学校へ無理に行かせようとはしなかったけど、
そんなのは、僕の単なる甘えだったのだ。
もし僕がすぐ部活に戻ってちゃんと練習していれば、
ゴールド金賞も取れたのではないだろうか・・・
長年続いた金賞の記録が途切れた責任、
そして、あの多々良さんの悔し涙が、いつまでも頭から離れない。
そのため、僕はコンクールが一段落するとすぐに、
合宿に参加するプリントを書いて、提出した。
僕が今まで後悔してきたことは、思えば災厄が怖くて
周りのことを避け続けていたことが原因だ。
今度こそ逃げ出したりしない。
正面から向き合って、悔いの残らぬ学校生活にしたい
そう改めて僕は決意した。
数日前、部活の後片付けで多々良さんと少し話をする機会があった。
「ごめん、多々良さん・・・
僕の方こそ、ちゃんと演奏の練習を続けていれば、
みんなの足を引っ張らなかったのに、僕は・・・」
「ううん。王子君も、猿田君や私と同じように色々大変だったもん。
王子君は全然悪くない。私がそう保証する」
そう言ってくれると、余計に自分が恥ずかしくなってしまう。
「ありがとう・・・」
そう言うのが精一杯だった。
「あ、あと・・・王子君」
部室を出ようとする僕を、多々良さんが呼び止めた。
「私も、今度の合宿に行けなくてごめんね・・・
王子君も猿田君も行くのに、私だけ逃げるみたいで・・・」
何を言ってるんだ。逃げたのは僕の方だ。
そんな風に自分を責めないで欲しい。
多々良さんをこれ以上見るのが、いたたまれなかった。
「多々良さんは心配しないで。
合宿が終わってまた部活が始まったら、その時また話すから」
心配そうな多々良さんから目線を外し、僕は音楽室を後にした。
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