過去ログ - 恒一「『ある年』の3年3組の追憶」
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90:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 22:14:34.75 ID:4DOG5YTr0

迷うことなく、アシは外へ出た。
こんな所にいつまでもおったら、今度はアシが焼き殺される番じゃ。
外はいつしか雨が本降りになっちょる。
少しでも館から遠く離れようと闇雲に走るアシは、
雨で濡れたタイルに足を滑らせ、盛大にすっ転んでしもうた。

「イテテ・・・」

なんとか立ち上がると、目の前で人が仰向けに倒れとる。

「大丈夫かいな?」

そう言って見上げると、アシは愕然とした。
頭から血を流して、ぐったりしておるのは小椋じゃった。
ピクリとも動かない。まさか死んじょる・・・?

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

小椋は殺されてしもうたのか、それはわからん。
またアシは逃げた。とりあえず屋敷から離れた雨宿りできる場所に。
やっと木の下に潜り込むようにして、腰を下ろしたのもつかの間、
またしても目の前が光ったと思うと、鼓膜が破れんばかりの
巨大な轟音が鳴り響いてきおった。

「こ、今度は雷かいな?アシはどうすればいいんじゃあ!」

ふと、古びた青い車が見える。
あれはさっき、和久井を病院へ運んだ・・・千曳センセの車じゃ。
やっと、千曳センセが戻ってきたんじゃ!
助かったぞな。アシはふらふらになりながら駆け寄ると、
そこには勅使河原、望月、有田が震えながら車の側に座っていた。
ようわからんが、車の中にも誰かおるようじゃ。

「みんな、無事じゃったのか!」

「うん・・・勅使河原君は少し足を怪我したけど、もう大丈夫」

「私はなんとか助かったけど、一緒にいたみんなはまだ・・・」

「イテテ・・・まだ痛ぇ。おう、そうだ。猿田、王子はどうした?」

そうじゃ。アシはいつも王子と一緒におるから、
みんなはアシを見れば、王子がどうなっちょるのか気にするはずじゃ。
けんど王子は、王子は・・・

「王子が・・・死んでもうた・・・」

「嘘っ!」「あいつが!」「そんなっ!」

三人が、ほぼ一斉に驚きの声を上げよる。

「王子は・・・火事で丸焦げになって、死んでしもうたぞな・・・
けんど、アシだけが生き残ってしもうた・・・
アシは・・・王子を見殺しにして、逃げたぞなぁぁぁ!!!」

なんちゅうことじゃ。
もし、アシが榊原の言うことを素直に聞いて、すぐ外に出ちょれば、
もし、アシが食堂の異変を不審に思わんとけば、
もし、王子が食堂のドアを開けようとするのを止めちょれば、
そのどれかを一つでもしとけば、王子は死なずに済んだはずじゃ。

アシには後悔ばかり残っちょる。
王子があんな悲惨な最期を迎え、
おめおめと自分一人だけ、こうして生き残った我が身が浅ましいぞな。

言葉にならない咆哮をあげ、アシは慟哭しちょった。
その間にも、アシらの合宿所は、
王子の命を奪った、地獄のように燃えさかる炎がさらに勢いを増し、
館全体を灼熱の火炎で包み込もうとするところじゃった。



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