過去ログ - 恒一「『ある年』の3年3組の追憶」
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95:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 22:21:30.99 ID:4DOG5YTr0

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

目の前で起きたことが信じられなかった。
杏ちゃん。紅く染まった躰。倒れたまま動かない。
死んだ?そんな、あの杏ちゃんが簡単に死ぬはずがない。
これは何かの間違いだ。夢なら早く覚めて欲しい。
お願い、覚めて。お願いだから・・・

私は無我夢中で走っていた。
杏ちゃんを置いてきてしまった。
どうして?
一緒に脱出すると約束したのに、なぜ私一人だけなの?
わからない。
今、私がどこを走って、どこへ向かっているのかもわからなかった。

部屋、ダメだ。炎に包まれて、窓まで行けそうにない。
また長い廊下に出る。果てしなくどこまでも続く長い道。
こんなに延々と続く通路だったろうか?
いた、人影が見えた。こちらに向かってくる。
杏ちゃんが刺された時も、人影が映った。
その人とは違う。別の人なら助けてくれるに違いない。
そうだ、杏ちゃんも助けてもらわなきゃ。
やっとのことで、その人影まで辿り着いた。

「松井さん!」

この声は聞き覚えがある。たしか・・・
ふと、喉元がひんやりする。冷たい。
氷のように冷たい何かが、喉を貫いた。
その喉から、鉄の味が口の中全体に広がった。
口の中では満たしきれず、外までこぼれていく。
目の前の人影が視界から消えた。いや、私の視界が上を向いただけなのか。
宙を舞っている。それにしては空を飛ぶような心地よさは微塵も感じられない。
私の身に何が起きたのだろうか?
杏ちゃんが動かなくなって、私はひたすら逃げて、それから・・・
それ以上、何も考えられなかった。

天井が写る視界が歪む。
黒と紅に入り交じった、得体の知れないものが私を覆い尽くそうとしている。
それは私を貫いた何かよりも遙かに冷たく、
辺り一面に燃えさかる炎の熱さが吹き飛ぶくらい、凍えるものだった。

「嫌だ・・・やめて・・・来ないで!杏ちゃん・・・助けて!
初めて会った、あの時みたいに助けてよ・・・ねぇ・・・杏ちゃん・・・」

必死に払いのけようとしても、声が出ない。躰も動かない。
口から飛び散ったものとは違う何かが、瞳からこぼれ落ちてきた。

得体の知れないものが、私の中で暴れ始める。
黒と紅に染まった何かが、私の躰を呑み込んでいった。



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