927:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/02/05(火) 23:57:42.54 ID:eaEKmUkFo
わずか数ヶ月僕が家庭を留守にしている間に麻季の心境に何が起きたのか、どうして彼
女は自分の夫と子どもたちにこんなひどい仕打ちができたのか。今夜はようやくその答が
聞けるのではないかと思ったけど、滑り出しは最悪だった。謎がさらに深まっていくばか
りだ。もう諦めて帰った方がいいんじゃないか。麻季の心境のことは諦めるつもりになっ
たばかりなのだし。
一瞬そう考えたけど、一見すると整合していない麻季の話は彼女の中では完結していた
ことを思い出した。コミュ障というか彼女は心情表現が稚拙なのだ。どうせもう遅くなっ
てしまっている。僕はもう少し粘ってみるつもりになった。そのためにはこちらから話を
誘導して質問した方がいい。付き合い出したばかりの頃はよくそうしたものだった。
とりあえず黙って麻季に冷酒を注いでから僕が自分から質問しようとしたとき、麻季が
注文した料理が一度に運ばれてきてしまった。
「話は後にしてとりあえず食べて」
そう言って麻季は取り皿に運ばれてきた料理を取り分けて僕の前に置いた。「あなたは
放っておくと夜食べないことが多かったよね」
「・・・・・・そうだっけ」
「うん。だから子どものこととかすぐにあなたに相談したいときでも、あなたに食事させ
るまでは我慢してたんだよ。そうしないとあなたは相談を真面目に聞いてくれるのはいい
んだけど、夢中になって食事を忘れちゃうから」
いまさらそんな話を微笑みながら言われても困るし、同時に全く自分の心には響いてこ
ない。懐かしさすら浮かんでこないのだ。当然とは言えば当然だった。僕には今では理恵
がいる。麻季は僕たちは離婚協議中だけどお互いにまだ愛し合っているというようなこと
を言った。でも僕の愛情はもう麻季には向けられていない。そして麻季だって鈴木先輩と
再婚するのではなかったのか。僕のことを愛しているのならそんなことをするわけがない。
麻季が普通の女なら。
そう普通の女ならそうだ。でも麻季は、少なくとも今の状態の麻季は普通ではないのか
もしれない。僕はとりあえず奈緒に対する麻季の気持について棚上げして、根本的な疑問
から解消してみようと思った。
「まあせっかく注文してくれたんだから食べるよ。でも時間も遅いし食べながら話そう」
僕は麻季を宥めるように微笑んでみた。まるで言うことを聞かないわがままな子どもを
あやすように。
「ちゃんと食べてくれる?」
麻季が顔をかしげて言った。それはかつてはよく見た見覚えのある可愛らしい仕草だっ
た。
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