過去ログ - エルフ「……そ〜っ」 男「こらっ!」
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955:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/12/31(月) 19:45:04.93 ID:EQvKQYAS0
男「……」

 そんな彼に向かってゆっくり、ゆっくりと男は詰め寄る。腰にかけてある短刀を抜き放ち、人間達の代表とでもいうかのように命を狙ったエルフに向かって裁きを下そうとする。

エルフ隊長「……もはや、これまでか」

 とうとうエルフ隊長も諦めがついたのか、目の前に立ち、短刀を握り締める男を握り締める男に向かって最後の一言を告げた。

エルフ隊長「我が同胞たちがいつか貴様に裁きをく……」

 エルフ隊長が死ぬ前の一言として恨み言を男に告げている途中、そんなものを聞く気はないという意思を男は示した。エルフ隊長の顔面に短刀を突き刺すことによって。

男「く、くくくっ。はははははははははっ!」

 既に肉の塊と化したエルフ隊長の顔面から短刀を抜き放ちながら男は笑い声を上げた。

男「やった、やった! 守った、守ったぞ! 今度こそ、僕はみんなを守ることができたんだ!」

 仲間を守れなかったトラウマを乗り越え、とうとう己の力で仲間を守り切ることができた男は達成感から歓喜の叫びを上げた。だが、助け出した仲間の姿を見て、彼の喜びはすぐさま消え失せた。
 女魔法使いは未だ意識が戻らず、倒れたまま。騎士と女騎士が服を破いて応急手当をしている箇所は先ほど男の魔法によって痛みを訴えていた場所だった。

男「……あっ」

 そのことに気がつき、男の意識は一気に現実に戻された。確かに、仲間を守ることは出来た。だが、結局自分の未熟さによってその仲間を傷つけてしまっていた。
 そもそも、本当に仲間のことを想っていたのなら、エルフたちに見つかるような可能性が少しでもある行動を取るべきではなかった。

男「あ、ああっ……」

 すぐさま男は倒れている女魔法使いの元に駆け寄り、血にまみれた腕で少女を必死に抱き起こす。そのあまりにも軽い少女の重さを抱きかかえた際に実感し、同時にこの少女をこんなところに連れてきたことを今更ながら深く後悔した。

男「ごめん、また僕は……」

 また間違えたと心の中で呟く。そんな彼のもとに騎士と女騎士の二人が駆け寄る。

騎士「大丈夫か、二人共」

 この世の終わりのような顔をした男の肩に手をかけ、騎士は声をかける。女騎士は冷静さを失っている男の代わりに女魔法使いの状態を確認する。

女騎士「女魔法使いは魔力が切れたことによって一時的に意識がないだけみたいね。しばらくすれば目が覚めると思うわ。だから、男。そんなに力いっぱい彼女を抱きしめなくてもいいのよ」

男「……うっ、ううっ……」

 いつの間にか目元から溢れ出した涙を男はただただ流していた。自分のせいで傷つけた仲間たちに返す言葉がなかったからだ。
 かつてと違い、自分を守る力を手に入れた。他人の助けになるはずの力も得たはずだった。だが、本能に任せ憎しみに任せた力は大切な存在である仲間を傷つけた。もし、あのまま魔法が解除できなかったら……。そう思うと男の背筋に冷たいものが走った。
 このままではいずれ自分は取り返しのつかないことをしてしまうのではないか? そんな考えが彼の脳裏によぎった。

騎士「……ひとまず、ここを離れよう。今はいいかもしれないがエルフたちが戻ってくる可能性がないわけじゃない」

女騎士「そうだな。男、立てる?」

男「うん……。騎士の言う通り、敵がいなくなった今のうちに基地へ戻ろう」

 眠ったままの女魔法使いをその背に背負い、男は立ち上がる。そうして、敵を警戒しながら先導する騎士と女騎士の後に続いて歩いていく。
 最後に、男は一度だけ後ろを振り返った。そこには、男が殺した無数のエルフの死体が無残に転がっていた。

男(……戦争なんだ。……やらなきゃ、やられるんだ)

 今までは何も感じなかったエルフを殺害するための力。それが仲間たちを傷つけるかもしれないと知った今、男は初めて己の持つ力に疑問を抱いた。
 だが、迷えば殺されるとその疑問を見ないようにし、無心を心がけ、騎士たちの背を追うのだった。



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