109:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/03/13(水) 00:21:12.17 ID:X0l/dJT5o
「最近までそれで悩んでいたの。行き詰まりっていうのかなあ。佐々木先生にはそんなに
あっけからんと弾かないでもっとしっとりと情感を込めて弾きなさいって言われるし」
指導されている先生にまで言われているなら父さんの感想も的外れなものではないのだ
ろう。
「ピアノの話はもうそこまでにするけど、結局あたしは失ってしまった大切なものをずっ
と求めすぎていて、そのほかのこと、家族への愛情とか友情とか将来への希望とか普通な
ら心の中に自然に溢れている前向きな感情が他の人より希薄だったのね。ある意味感情面
で欠陥があると言ってもいいのかも。そんなあたしには人に伝えたい気持ちなんかろくに
なかったから、演奏時の感情表現が下手というより人に伝えたい感情そのものが希薄だっ
たんだと思う」
何だか難しい話になってきた。
「まあ、ピアノの話はそこまで。もう一つあたしが大事にしてきたことがあるの。何だか
わかるよね」
「・・・・・・僕か」
「正確に言うと希望かな。いつか絶対にお兄ちゃんと再会できるんだっていう望み。そし
て、ただ待っているだけじゃその希望だって実現しないってことはあたしにもわかってい
た」
奈緒が今までで一番と言っていいほど真剣な表情で僕を見た。
「お兄ちゃん?」
「うん」
「あの雨の朝、お兄ちゃんと出会ったことだけど。あれは偶然っていうかあり得ないくら
いの奇蹟だったよね」
「そうだな。あの雨の日に奈緒は高架下で傘がなくて立ち往生していたよね」
「そうだよ」
「あのときは家庭でいろいろトラブルもあって、僕は珍しく早く家を出たんだ。そんな偶
然もあって僕はおまえとあの高架下で出会ったんだもんな」
「あれはお兄ちゃんが思っている以上にすごい偶然だったんだよ」
奈緒がそう言った。
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