50:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/03/03(日) 23:10:45.36 ID:y8XKonFyo
そうしてすら、二人の挑戦の叫びは彼女の頭をぐらぐらと揺らし、体そのものを震わせた。
なによりも空気を、そして、スタジオ全体をそれは揺り動かしていた。
蘭子自身はうかがい知れぬことであるが、その時点で生きていた人間は、その全てが吠え声で失神している。
神獣たちの背後にあった彼女を除いて。
それに耐えたのは、唯一、刀を振るっていた男だけ。
いや、それは正しくないだろう。
実際にその男を動かしているのは、手に持つ刀そのものであろうから。
男が、獣たちに向きなおる。
振り上げていた刀は、いつの間にか、ぶらりと無造作に下ろされていた。
現代の剣道において、下段に構える優位性は特にない。
下からの切り上げはルール上有効打になりえず、有効と認められる技を用いるには、一度竹刀を上に持ち上げる動作が必要となるからだ。
余計な一動作を必要とする以上、不利になるばかりだ。
だが、実戦においては違う。
その構えは、下から相手の手首を狙うことも、腹や胸といった重要な部位への刺突にもつなげやすい。
特に、相手の動作の前兆――『起こり』を察知できる者からすれば、いわゆる後の先を取って、それらの攻撃につなげるのがたやすくなる。
地摺りの剣。
それが、男が美希と響の変化……否、真の姿たる獣に対してとった構えであった。
四足の獣がそのまま駆けてくるなら、その顔面に。
その跳躍力を生かしてとびかかってくるなら首元から腹を狙う。
そうして切り上げたのを返す刀でもう一方の獣へと。
男の――そして、刀自身が描く理想の顛末は、そういったものであったろう。
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