979:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/08/06(火) 16:18:15.14 ID:D/J1TKXp0
 「紗和ちゃん、大丈夫よ。 
  口は悪いけど、中身は紗和ちゃんの知ってる音哉くんと一緒だから」 
  
 そう、会話をしているうちに何となくわかった。 
 口調は悪いし、言葉に歪みが出ている。 
 だけど、根本的なところは変わっていない。 
  
 「で、でも――」 
  
   
  
 ぎぃっ 
  
   
  
 鈍い音がした。 
 愛美は反射的に振り返る。 
 それは油の錆びかけた、この教室のドアが開く音だったからだ。 
  
 「四方…くん…」 
  
 体を強張らせていた紗和子が、肩を撫で下ろした。 
 入り口に立っていたのは、愛美たちと同じく明進塾に通う仲間、四方健太郎(男子19番)だった。 
 やや性格が悪く、愛美は正直なところあまり好きではない。 
 紗和子もあまり好印象を持っていないようだった、学校の教師たちに批判をする様が、あまり気に入らなかったらしい。 
 自分第一主義者で、将来は政治家――こんなプログラムなんてやっているような馬鹿みたいな国の政治家だなんて、なんて物好きなんだろう――志望の、エリート思考の持ち主だ。 
 しかし、仲間には変わりない。 
  
 「凄い偶然ね、全員がここに揃うなんて…」 
  
 愛美は健太郎に向かって笑みを浮かべた。 
 しかし、それは健太郎には届かなかった。 
 健太郎が右手に携えていた黒い物体――拳銃(グロック19という自動拳銃だ、もちろんそんな名前は愛美の知るところではないけれど)を持ち上げたのだ。 
  
 「愛美、伏せろっ!!」 
  
 音哉が叫び、同時に机から飛び降りて、紗和子を庇うように倒れた。 
 愛美も音哉の声を聞くよりも早く、机の下に伏せた。 
 彼女である自分ではなく、友達の紗和子を庇っていることに少し嫉妬したが、状況や愛美と紗和子の身体能力の差からして仕方がないし、そもそもそんなことを考えている場合ではない。 
 刹那、ばんっという耳の痛くなる音が響き、教室の後ろの窓――先程音哉と紗和子が外を見ていたそれ――のガラスにひびを入れた。 
  
 「何やってんだ、お前っ!!」 
  
 音哉が叫ぶ。 
 健太郎は何も答えない。 
 いや、何か小声で呟いていた。 
  
 「……だよ………ぼく………」 
  
 愛美は見た。 
 健太郎の小さな目は、白目が真っ赤に見えるほど充血しており、元々あまり整えていない髪も、寝起きのようにボサボサになっている様を。 
 そして、その顔に張り付いた、奇妙に歪んだ笑みを。 
  
 …四方くん……いつもと違う…っ 
  
 「音哉くん!! 
  四方くん、おかしい…なんか…――きゃあっ!!」 
  
 愛美は悲鳴を上げた。 
 銃声が響き、愛美の足のすぐ横に着弾した。 
  
 全身がガタガタと震える。 
 だけど、動かない。 
 今、とても立てそうにない。 
  
 怖い……嫌……っ 
  
 横で、足音が聞こえた。 
 ちらっと見えたその黒い革靴から、それが音哉の走る音だとわかった。 
  
 「お前、今何したかわかってんのか!?」 
  
 だんっと床に響く音。 
 震える体を動かして、どうにか机を支えにして上半身を外に出した。 
 入り口付近で、健太郎が倒れ、その上に音哉が馬乗りになっていた。 
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