610:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/25(火) 07:21:28.29 ID:tPA7g4lio
遠くの空は月の明かりで微かに光をまとっているのに、近くに居たその人は、ほとんど真っ黒に見えた。
でも、それが誰なのか、わたしにはすぐに分かった。
だって彼は、わたしの名前を、今にも泣き出しそうな声で呼んでいたのだ。
何かを言おうと思った。
でも、何を言えばいいのか、よく分からなかった。
わたしは、あの巨大な蛇のような濁流に、身を任せたはずだった。
その中から、彼が引きずりあげてくれたんだろうか。
痛む身体を動かして、自分のいる場所を確認する。
あの黒い水流は、すぐ傍で荒々しく唸り続けていた。
わたしたちはその流れから、かろうじて、外れているだけだった。
ツキは荒い呼吸をどうにか整えようとしていた。髪も身体もずぶ濡れで、顔は真っ青で、体中が汚れていた。
「ごめんなさい」
とわたしは言った。だってそれは、どう考えたってわたしのせいなのだ。
でも、わたしの耳にすらその声は白々しく、嘘っぽく響いた。
わたしはどうしようもなく悲しい気持ちになった。
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