611:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/25(火) 07:22:37.51 ID:tPA7g4lio
  
  言葉も出せない様子で頷くと、彼はそのまま身体を動かし、わたしの腕を引きずって、水流から引き離そうとした。 
  わたしはそれに従って、自分の身体をどうにか持ち上げる。水に濡れた衣服が重く、雨は痛いほど強い。 
  
  身体を動かすたびに手足に痛みが走った。打ったのか切ったのか擦ったのか、分からない。 
612:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/25(火) 07:23:30.74 ID:tPA7g4lio
  
 ◇ 
  
  生き延びることができたのは、ほとんど奇跡のようなものだった。 
  
613:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/25(火) 07:25:13.08 ID:tPA7g4lio
  
  あの嵐の夜、わたしは両親と激しい言い争いをした……らしい。 
   
  どんな言い争いだったのかは覚えていない。 
  とにかく、その出来事で打ちのめされたわたしは、家を飛び出した。 
614:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/25(火) 07:26:27.84 ID:tPA7g4lio
  
  ツキに助けられたあと、わたしは再び意識を失った。 
  
  彼はわたしを背負って近隣の民家に向かい、電話を借りて救急車を呼んだ。 
  時刻は夜の九時を過ぎていたらしいので、民家の住人からすれば迷惑な話だっただろう。 
615:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/25(火) 07:28:18.15 ID:tPA7g4lio
  
 ◇ 
  
  当たり前のことだけど、わたしはいろんな人に叱られた。 
  ツキもいろんな人に叱られていた。ちょっと悪いことをしたかな、と思う。 
616:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/25(火) 07:29:05.16 ID:tPA7g4lio
  
  わたしを叱ったのは主にツキの両親で、叱らなかったのはわたしの両親だけだった。 
  
  ツキの両親は、わたしとツキの行為に対して大声を上げて怒った。 
   
617:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/25(火) 07:30:33.34 ID:tPA7g4lio
  
  彼らはそれから、わたしに頭を下げた。 
  でも、わたしは別に謝ってほしいわけじゃなかった。 
  だから、すごく困った。 
   
618:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/25(火) 07:31:21.49 ID:tPA7g4lio
  
 ◇ 
  
  目が覚めてから数日間、様子を見るためにと入院させられていた。 
  ことがことだったので、担当の医師はわたしに「よければカウンセラーを紹介しますが」と言ってきた。 
619:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/25(火) 07:32:32.33 ID:tPA7g4lio
  
 ◇ 
  
  数日後、さしたる感慨もなく退院し、わたしは家に帰った。 
  家に帰るのは久しぶりだという気がした。 
620:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/25(火) 07:33:29.20 ID:tPA7g4lio
  
  翌朝、案の定、雨が降っていたけれど、わたしはツキの家まで傘を差して歩いていった。 
  彼がわたしを当然のような顔で出迎えたので、わたしはちょっとおもしろくない気分になった。 
  
  しばらくのあいだ、何をするわけでもなく、二人で話をした。 
621:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/25(火) 07:34:00.02 ID:tPA7g4lio
  
 ◇ 
  
  気象予報士の言い分に反して、雨は十時過ぎに上がった。 
   
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