過去ログ - 八幡「徒然なるままに、その日暮らし」
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31: ◆/op1LdelRE[saga]
2013/06/08(土) 01:59:09.38 ID:9jYWSIZM0
 そんなことをぼんやりと考えていたのだが、妙な気配を感じて視線を動かすと、雪ノ下がやけに剣呑な目でこちらを見ていることに気付いた。
腕を組み、俺を見下すようにおとがいを上げて、冷ややかな眼差しを向けながら苛立ちを露にしている。
何だよ、どうして急にそんなに機嫌が悪くなってんだよ。

「言いかけて途中で止めないで頂戴、気分が悪いわ、まるでファーストネームで呼び捨てにされたみたいで。一体何を言おうとしたのよ」
以下略



32: ◆/op1LdelRE[saga]
2013/06/08(土) 02:03:18.54 ID:9jYWSIZM0
 そこで雪ノ下も得心がいったのか、ようやくこちらに向けられていた氷点下を思わせる視線が和らいだ。
おかげでこっちも一息つける。どんなプレッシャーだよ。
俺が猟犬に睨まれた野鳥のような気分でいたことなど露知らず、雪ノ下は少し遠い目をする。

「以前は確かにそうだったわね。けれど、色々あって考えを少し改めたのよ。まだ途上に過ぎないけど」
以下略



33: ◆/op1LdelRE[saga]
2013/06/08(土) 02:07:36.98 ID:9jYWSIZM0
「ちょっと待って。それより、どうしてあなたが姉さんのことをファーストネームで呼んでるのよ、陽乃さんとか、随分親しげじゃない?」
「え? 今更それ聞くのか? いやだってそう呼んでいいって本人に言われたし。つーか他になんて呼べばいいんだよ。ここで雪ノ下さんとか呼んだらややこしいだろ」

 何か喋ってる内にどんどん機嫌が悪くなってないか? というか普通に睨まれてるんですけど。今日一の鋭さじゃねぇの、これ。
思わず一歩引いてしまう。目なんてとてもじゃないけど合わせられない。
以下略



34: ◆/op1LdelRE[saga]
2013/06/08(土) 02:10:26.50 ID:9jYWSIZM0
 しかし何をそんなに怒ることがあるんだ? 由比ヶ浜だって陽乃さんのことは名前で呼んでるし、別に問題ないと思うんだけど。
え? ひょっとして自分の姉を親しげに呼ばれるのが気に食わないとか、そういう怒り?
それか、俺如きが他人を名前呼びとは百年早いとかそういう系? そんなひどい。
少し腰が引けているのを自覚しつつも、逸らしていた視線を戻して、ちらと雪ノ下の様子を窺ってみる。

以下略



35: ◆/op1LdelRE[saga]
2013/06/08(土) 02:14:46.06 ID:9jYWSIZM0
「……姉さんがファーストネームで呼ばれているのに、私はファミリーネームで呼ばれているというのも、少し腹立たしいわね」
「何でだよ、そんなことで怒られても知らんわ」
「勘違いしないで。別にあなたの評価なんて塵ほどの価値も興味もないわ。だけど、だからと言ってあなたなんかに私のことを軽んじられるというのは納得いかないのよ」
「無茶苦茶言ってんなお前」

以下略



36: ◆/op1LdelRE[saga]
2013/06/08(土) 02:18:36.14 ID:9jYWSIZM0
「……仕方がないわね。正直全く気が進まないけれど、いっそ不愉快とすら思う気持ちもあるけれど。この際そこは目を瞑って、特別にあなたに私をファーストネームで呼ぶことを許可してあげるわ」
「どういう理由でそんなに上から目線なんだよ」
「何よ、文句でもあるの?」
「いや文句じゃなくて」

以下略



37: ◆/op1LdelRE[saga]
2013/06/08(土) 02:21:44.39 ID:9jYWSIZM0
「何? 変に意識しないでくれる? 気持ち悪いから」
「だからいちいち俺を罵倒すんな」
「別にファーストネームで呼ぶくらい気にする程のことでもないでしょう。大体あなた、由比ヶ浜さんのことも結衣って名前で呼んだことあるじゃない」
「ん……まぁ、そりゃそうか」

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38: ◆/op1LdelRE[saga]
2013/06/08(土) 02:24:52.64 ID:9jYWSIZM0
 しかし、そう考えると少し気も楽になった。
それにまぁこんな機会でもないと、こいつを名前で呼ぶことなんてできないだろうし。
物は試しと改めて雪ノ下へと向き直る。
対する雪ノ下の方もまた、それを受けて立つとばかりに腕を組んで、不遜な表情のまま真っ直ぐにこちらに視線を向けてきていた。
視線が交差し、周囲に静寂が訪れる。
以下略



39: ◆/op1LdelRE[saga]
2013/06/08(土) 02:28:29.74 ID:9jYWSIZM0
 一瞬の停滞。
その間も交わされる視線。
雪ノ下の瞳は変わらず真っ直ぐに俺を見据えていて。
それを意識すると、余計に身体が強張ってしまう。
胸の奥で心臓がやけに騒いでいる。
以下略



40: ◆/op1LdelRE[saga]
2013/06/08(土) 02:32:53.36 ID:9jYWSIZM0
 一瞬開きかけた口は、しかし意に反してすぐに噤まれてしまう。
よく考えたら、いつぞやの由比ヶ浜の時とは状況が違い過ぎるのだ。
あの時は話の流れがあって、むしろ名前で呼ぶ方が自然な状況になってたし、会話の勢いでさり気なく口にすることだってできたけど、今は違う。
部室に二人きり、雪ノ下と向かい合わせ、静寂の空間。
おまけにこんな思いっきり待ち構えられた状態で、しかも真正面から見据えられた体勢でとか、何段ハードル重ねてんだよ。
以下略



41: ◆/op1LdelRE[saga]
2013/06/08(土) 02:38:48.16 ID:9jYWSIZM0
 中々喋らない俺に痺れを切らしたわけでもないだろうが、雪ノ下の表情がぴくりと揺れる。
それが切っ掛けとなったのか、ようやく俺の口が動いてくれた。
まるで溜めに溜めた想いを吐き出すように、一言。

「……雪乃」
以下略



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