111: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/08/25(日) 05:58:39.23 ID:79dYTcmBo
「……そう」
彼女は落胆したように、それだけ言うと、少し俯いた。ああ、こうなるから嫌なのだ。弁が立たないから、相手を傷つけずに意見を言うことが出来ない。
どうしても、相手が傷つかないギリギリのラインが分からない。私は思わず、
『……すみません』
と謝った。彼女が望んだこととはいえ、私は千秋さんを傷つけたことだろう。彼女ほどの実力の持ち主に対し、素人が何を言ったところで彼女の足しにはならない。
以前彼女が言っていた通り、聴衆の多くはきっと、声の素人である。ただ、素人であるが故に、様々な感性と、様々な観点を有している。
そんな中、一素人の私の意見を反映させたところで、私と似た感性と観点を持つ人にしか通じない、と私は思っていた。
「……どうして、謝るのかしら?」
千秋さんは少し顔を上げると、じっと私を見てくる。私は、思わず目をそらしてしまう。
やや上気した白い絹の肌に、良く映える黒のしなやかな髪。そして、吸い込まれるような錯覚を覚えるような、少し茶がかった瞳。
それに、なんとなく気恥ずかしさを感じてしまったのだ。
思えば、一回り近く年下の女性とこんなところで二人きり、というのはいかにも危うい気さえしてくる。
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