12: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2013/08/28(水) 21:15:26.47 ID:0wTRHLBzo
トライアドプリムスの一人、渋谷凛さんは既にソロデビューを果たし、ヒットチャートにも名前が挙がり始めた頃合いでしたので、ユニット結成の報は人々の興味を充分に惹いたことでありましょう。
ですから、チケットを入手するのも困難かと思われましたが、そこは運の良さに定評のある私です。大して労せずにそれなりの席を確保することが出来ました。
そして迎えた当日であり始まりの日。
今日は一体どんな面白いことが待ち構えているのだろう。
13: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2013/08/28(水) 21:16:07.79 ID:0wTRHLBzo
岡山駅に着いたのは、時計の針が十二を指して綺麗に重なっていた時のことです。
入場が十六時半からですので、少し時間が空くことになります。
すっかり空っぽになってしまったお腹が今にも悲鳴を上げそうでしたが、私はまず宿の確保へと向かいました。
折角遠出をして来たのですから、明日一日は街中を面白いことを探して練り歩き、明後日の電車で島根へと帰るつもりでいたのです。
14: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2013/08/28(水) 21:17:03.53 ID:0wTRHLBzo
土曜の昼間ということもあり、往来は人々で賑わっておりました。
大変に天気の良い日ですから、家族連れの姿も多々目につきます。
両親に挟まれた女の子が仲睦まじく両の手を繋いでいる様子などを見れば、自身の幼かった頃が思い出されて非常に温かな気持ちとなりました。
「次の休日は、両親と一緒に何処かへ行こうかしら。」
15: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2013/08/28(水) 21:17:56.14 ID:0wTRHLBzo
スーツ姿の男性と、双子なのでしょうか顔つきの似通った女の子が二人。甘い香りが漂う洋菓子屋さんの前で話し込んでいました。
私が立ち止まって見ていると、男性は彼女たちを残して一人店内へと入っていきます。
すると彼女のたちは、弾かれるようにしてその隣にあるコンビニへとぱたぱた駆けて行くのです。
とりたて珍しい光景ではないのかもしれませんが、なぜだがその時の私は彼女たちのことが無性に気になってしまい、後を追うようにしてコンビニの自動ドアを抜けました。
店内をきょろきょろと見渡すと、先程の二人が化粧室へと駆け込む姿が見られます。
16: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2013/08/28(水) 21:18:31.83 ID:0wTRHLBzo
コンビニを出ますと、先程の二人は洋菓子屋さんの前できゃあきゃあと何やら楽しげな様子であります。
男性の姿はありません。まだ店内から戻ってはいないようです。それも無理のないことでしょう。
少し離れたこの場所でさえ、甘く幸せな匂いが鼻腔へと届くのです。店の外ですらそうなのですから、中の様子は言わずもがな。
それに加えて視覚にまで訴えかけてくるのですから、時間がかかるのも当然でしょう。
17: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2013/08/28(水) 21:19:51.04 ID:0wTRHLBzo
待つこと暫くした後、漸く男性が戻って参りました。
右手には白い紙袋が提げられており、心なしか甘い香りがより一層と広がったような気もいたします。
男性は待ち受けていた二人を見ると、何やら溜息をひとつ。そして、とんとんと彼女たちの頭を軽く小突くのでした。
18: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2013/08/28(水) 21:20:30.16 ID:0wTRHLBzo
三人を見送ると、私は当初の目的を果たすために彼らとは反対方向へと向かいました。
19: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2013/08/28(水) 21:21:07.94 ID:0wTRHLBzo
下から上まで白磁に染め上げられた建物は、青々と広がる空に浮かび上がるようにして聳えております。
その空には雲一つなく、燦々とお日様が御座しますのですから、ホテルの一面が白い煌めきを放っており、その輝きたるや目が潰れてしまいそうでした。
それでも凝らして見れば建物の随所には飾り彫りが施されていまして何だか、お子様の私が泊まるには場違いではないのでしょうか、といった気持ちになってしまいます。
門構えも堂々たるものでして、どこぞの宮殿を思わせる風情です。左右の柱にはランプを模したと思われる白熱灯が拵えられており、その両柱を繋ぐようにして緩やかなアーチ状に屋根が渡し架けられていました。
20: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2013/08/28(水) 21:21:43.83 ID:0wTRHLBzo
自動ドアを抜けると、当たり一面には真白の空間が広がります。
石畳の床を歩けばこつこつと甲高い音を鳴らします。ロビーに置かれた革張りのソファにはスーツ姿の男性が一人。響く足音にこちらへと目を向けますが、直ぐにその視線は新聞へと戻りました。
受付には若い女性が一人詰めておりました。
21: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2013/08/28(水) 21:22:12.79 ID:0wTRHLBzo
「ご予約の方ですか。」女性は言います。
「いえ、違います。部屋に空きはありますか?」
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