過去ログ - 【モバマス】「幸子、俺はお前のプロデューサーじゃなくなる」
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18:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/04(水) 22:00:17.09 ID:DVgSD76f0
 寝坊して、遅刻した。
 涙で腫らしたひどい顔のまま、電車に飛び乗って事務所に行った。
 プロデューサーさんは何も言わなかった。かえってそれが怖かった。
「すみません……」
 こちらからそう言ったきり、目も合わせずに駆け出した。
 彼がどんな表情を浮かべていたか、想像するだけでも気絶しそうなほど恐ろしかった。
 レッスン場に入ると、既に、たくさんの人たちが音楽に合わせて踊っていた。
 彼女たちのひとりひとりが、自信に満ち溢れているように見える。
 同じ人間のはずなのに、熱気が違う、格が違う、生きてる世界が違う。
 もし、この場の全員に順位付けしたとしたら、私は間違いなく最下位だ。
 渦巻く熱気に吹き飛ばされてしまいそう。
 何とか空いてる場所に入り込んで、見よう見まねで腕と足を振る。
 だけど、すぐに気づく。私のは本当にただ動いているだけだって。
 全くついていけない。キレもない。熱もない。冷え切った体が機械的に右へ左へ。なけなしの自信すらすぐに砕け散り、不安そうな瞳で周囲をちらちらとうかがう私は、みじめそのもの。誰も私のことなんて見てなくて、それが余計に場違い感を煽っていく。
 音楽が止まる。前に立つトレーナーさんが私の名前を呼んで、それでようやく、周りの子たちが、私の存在に気づいたようだった。いくつものが視線が集中するのが分かり、怖くなってうつむいた。
 トレーナーさんが、私を紹介してくれる。親切心なんだろうけど、さらし者にされているようにしか思えない。自己紹介を促されたけれど、名前を言うのが精一杯。最後は半ば逃げるようにして立ち去った。終始うつむいたままで。誰とも目を合わせずに。
 休憩時間。
 私は足早にレッスン場を後にして、トイレへと駆け込む。
 個室の扉をかけて、バッグから携帯を取り出す。
 ちかちか光る、一通のメールはお母さん。
『昨夜はよく眠れましたか? 慣れない環境で体調を崩していないか心配です』
 大丈夫だよ。今、レッスンの休憩中で――。
 震える指でボタンを押していく。
「あの子さ、何あの態度。舐めてんの?」
 呼吸が止まる。
 心臓が握り潰されたみたい。
「やる気ないんでしょ、いきなり遅刻とかありえない」
「さっさと辞めてほしいよね。ああいうのがいると空気悪くなるし」
『レッスンはまだ少し難しいけど、ついていけないってほどじゃなさそう』
 罵りの言葉を受け流し、なめらかに指が嘘を打ち出していく。
 自然にそうしてしまえる自分に気づいて、背筋がぞくりとした。
『さっき、友達に聞いてちょっとコツをつかめたし――』
 指が硬直する。
 私、こんなことをしに来たんだっけ……?
 こんな、みじめな、嘘ばっかりつきに……。
 目の奥が熱い。
「しかもさ、あの子のプロデューサーって、前まで輿水さんの担当だったんでしょ? プロデューサーも、輿水さんも、あんな子に引っかき回されて悲惨だよねえ」
 溜まった熱が、すうっと瞳からこぼれ出す。
 喉から漏れそうな声をせきとめるように、両手で口を覆った。
 ぽたぽたと、手の甲を熱い雫が打っていく。


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