2: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/01(水) 21:32:21.18 ID:a9ZPEh6eo
突然の話だったから、なかなかに驚いた。
その話をされた日の午前はまだ、次の出撃に備えた訓練をおこなっていたし、その次の出撃にも、次の次の出撃にも、出るつもりでいた。
出ない、という選択は思いつきもしなかった。
わたしは修理のコストの低い艦だったから、かなりの出撃率の高さを維持していたのだ。
3: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/01(水) 21:45:08.77 ID:a9ZPEh6eo
だというのに、昼にその話を聞いて、夕方には正式に解体が決定していた。
寂しくてその日の夜、わたしは、既にすっかり馴染んでしまっていた自分の艦娘としての身体を、ひとり、鏡の前で確認していた。
4: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/01(水) 21:52:01.90 ID:a9ZPEh6eo
解体の提案を拒まなかったのは、わたしの身分のせいではなかった。
昔から身分や立場を気にするのが苦手だったから、それはない。
ではなにか、と言うとそれは……
それはなんだろう。
5: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/01(水) 22:08:51.82 ID:a9ZPEh6eo
解体されたわたしは、かつて住んでいたところとは違うところに移り住んだ。
その時点で季節はもう冬になっており、今日、ついに年が明けた。
幼い頃は年明けの雰囲気が好きだったな、なんて考えながら家の周りを少し散策した。
6: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/01(水) 22:15:55.68 ID:a9ZPEh6eo
近くに神社でもあるのか、たくさんの人出があった。
誰もがなんとなく、縁起の良さそうな表情をしている。
これから先の未来になにか良いことがあるだろう、という表情だ。
わたしはどんな表情をしているだろう。
7: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/01(水) 22:29:00.63 ID:a9ZPEh6eo
どこかの子どもがわたしを指さしてなにか言う。
やめなさい、とその父親が叱りつける。
そんな光景がなぜかわたしにある種の虚脱感を与えて、少し歩いたところでわたしは座り込んでしまった。
8: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/01(水) 22:49:12.38 ID:a9ZPEh6eo
両膝を抱えて、その間に顔を埋める。
もうどうにでもなれ、という気持ちだった。
ここで男に襲われようが、凍死しようが、もはやわたしには興味がなかった。
なにかを考えたり、なにかを想ったりする気力が、いつの間にか失われていた。
9: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/01(水) 23:09:30.00 ID:a9ZPEh6eo
あの、と案の定男に声をかけられた。
「大丈夫ですか」
「…………」
「どうかされましたか」
「…………」
10: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/01(水) 23:31:03.67 ID:a9ZPEh6eo
はじめは、彼はただ座っていた。
わたしはときどき彼のことを眺めたり、また膝に顔をうずめたりしていた。
けれどやがて彼は、これは僕のひとり語りだから聞かなくてもいいけれど、と前置きをして語り始めた。
「昔さ、仲の良い女の子がいたんだ。
彼女は僕の家のすぐ向かいにある家の子で、幼いときからよく一緒に遊んでいたんだけど、ある日その子は越してしまうことになったんだ。
11: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/01(水) 23:41:51.97 ID:a9ZPEh6eo
そこまで語って、彼は話をやめた。
ただわたしのことを見ている。
彼の無関係な話がなにか良い方向に働いたのか、わたしの虚脱感はいつの間にか、薄れていた。
十数回の呼吸をしてから明確な発音で、
12: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/01(水) 23:45:58.73 ID:a9ZPEh6eo
それからわたしは、困惑する男に一方的に別れを告げてアパートに戻った。
解体の提案を拒まなかった理由は、まだ思い付きそうにない。
54Res/21.17 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。