1:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[saga sage]
2014/03/10(月) 09:14:19.45 ID:ZI/zw+4DO
ある日、村に商人が来た。
ぶくぶくと太ったその商人はつまらなそうな顔で何もない村を練り歩き、土まみれの村人たちと何か話しをしていた。
そして翌日の夕卓、家族全員が集まる中で突然に父がわたしに言った。
「お前は明日から町で働くんだ」
きょとんと首を傾げるわたしに母が続ける。
「あなたはこんな寂れた村より町に行った方がいいわ。町なら一杯ご飯も食べれるし、あたたかい暖炉にもありつけるわ」
母が言うと、食卓に並んだ兄姉たちが一斉に不満の声を上げた。
「えー、なら私たちも町に行きたい!」
「一人だけずるいよ!」
そうやって唇を尖らせてむくれる兄姉たちを、母はその痩せこけた頬を緩めて優しくなだめた。
そして母は疲れたようなその笑みをそのままわたしに向けてきた。
「行って、くれるわね?」
わたしは答えず、逆に質問を返した。
「勇者様に会える?」
今度は母が目を丸くする番だった。
母はしばらく呆然とした後、困ったように、こんな小さなわたしに媚を売るよう一層笑みを深めた。
「え、ええ……、町に行けば勇者様にも会えるし、王様や王女様とも会えるわよ」
目が泳いでいた。
だがわたしは満面の笑みで即答した。
「わーい! ならわたし町に行くー!」
「よし! それなら今日は町への送り出し記念に豪勢な晩飯だ!」
すかさず父が割り込んで来て、わたしの言葉を決定事項にする。
話をとっとと打ち切るように、また何かから逃げるように。
やがて質素ないつもに比べようもない、より格段に豪勢な晩餐が執り行われる。
兄姉たちは不満たらたらにわたしに嫌味を言っていたが、今まで食卓に一度も上がったことの無い肉料理というものを母が土間から持って来たのを見て、関心はすっかりそちらに移ってしまった。
久しぶりに、みんな笑顔の食卓だった。
それだけで十分だった。
初めての肉料理、なんの味も感じなかった。
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