1: ◆RY6L0rQza2[saga]
2014/04/23(水) 10:22:51.11 ID:/OYRTqSbo
きい、きい、きい、きい。
錆び付いた車輪の音が、明け方の町に響いていきました。私と彼女は、自転車に二人乗って駅までの道のりを走っています。
「もうちょっとよ、頑張って〜。」
彼女の背中にしがみつきながら、声援を送ります。背中からは、彼女の暖かさが伝わってきました。きっと、私の暖かさも伝わっているでしょう。
上り坂にさしかかると、彼女と車輪が一緒に悲鳴を上げはじめて、私と大きな鞄を一緒に乗せて、力強く坂を登っていきます。
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2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2014/04/23(水) 10:23:23.02 ID:/OYRTqSbo
線路沿いの坂道には、彼女と車輪の悲鳴と鳥のさえずりしか聞こえなくて、とっても静かです。
「あらあら、まるで世界中に私たち二人だけみたいね〜。」
そんな事を彼女に言うと同時に、坂を登り切りました。それと同時に、彼女が自転車を止めて息を整えています。
3: ◆RY6L0rQza2[saga]
2014/04/23(水) 10:25:40.38 ID:/OYRTqSbo
私は、今日生まれ育った町から東京に出て、アイドルになります。
きっかけは、町を散歩していた時に出会った社長さんの一言、
『ティンと来た!』
4: ◆RY6L0rQza2[saga]
2014/04/23(水) 10:27:37.79 ID:/OYRTqSbo
駅に着くまで彼女は振り返る事もせず、そのまま駅の駐輪場の方まで自転車を動かしていきます。
「ありがとうね〜、助かったわ〜、私一人じゃ駅まで行けそうになくて…。」
自転車を降りた私は、送ってくれた彼女にお礼を言います。ええ、私は方向音痴なんです。
5: ◆RY6L0rQza2[saga]
2014/04/23(水) 10:28:05.79 ID:/OYRTqSbo
ここからだと、東京に行くには…とりあえず一番端っこの一番高い切符を買えばいいのよね。
彼女にそう聞いてみるけれど、彼女は曖昧な表情を浮かべたまま入場券を買っていました。
そうよね、私たちは殆どこの町と近くの街にしか行った事無いものね。
6: ◆RY6L0rQza2[saga]
2014/04/23(水) 10:28:36.64 ID:/OYRTqSbo
困ったわね、一昨日買ったばかりなのに、ここで紐が切れちゃったら大変よねぇ…。
そんな事を思いながら彼女を見ると、頷いて、引っかかった鞄の紐を外してくれます。
私は、ありがとうと言って、改札を抜けて、ホームに滑り込む電車のドアが開くのを待ちます。
7: ◆RY6L0rQza2[saga]
2014/04/23(水) 10:29:08.55 ID:/OYRTqSbo
一歩さえ出してしまえば、後はドアの中に行くだけです。電車に乗り込むと、振り返って、彼女に向かって声を掛けます。
「約束よ、必ず、またいつかここで会いましょう?」
彼女は、俯いたまま手を振りました。その姿がやけに悲しくて、少しだけ涙をこぼします。
8: ◆RY6L0rQza2[saga]
2014/04/23(水) 10:29:39.01 ID:/OYRTqSbo
私は、空いている席を探しに電車の中に行きます。
きょろきょろと目を動かしていると、視界の端に、銀髪が映りました。
綺麗な髪ね、なんて思いながら、窓側の席が空いていたので、座って一息吐きます。
9: ◆RY6L0rQza2[saga]
2014/04/23(水) 10:30:11.35 ID:/OYRTqSbo
がたん、ごとん。
名残惜しく窓の外を見ていると、線路沿いの坂道を、自転車が走っています。
窓を開けると、自転車に乗った彼女が手を振りながら、叫びました。
10: ◆RY6L0rQza2[saga]
2014/04/23(水) 10:30:44.96 ID:/OYRTqSbo
冷たい雫が膝の上に落ちた、と気づいた時にはもう、涙の大洪水です。
会えない訳じゃない。電車に乗れば二時間ちょっとで辿り着くこの町、だけどその距離は私たちにとってはとてつもなく遠い距離。
私はまるで今生の別れのように感じていました。
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