42:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/24(木) 15:47:28.20 ID:9uLTT2Jd0
二日後、大手のレコード会社に音無さんを連れて行く。
まさかと思ったが、件の音楽家二名――者倉氏と阿夕氏も打合せの場に出席されていた。
こんな話は聞いていない。
偉大な両氏を前に、終ぞ記憶に無いほど緊張しまくる僕であったが、音無さんは違った。
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2014/07/24(木) 15:49:24.61 ID:9uLTT2Jd0
曲がひとたび始まれば、もう音無さんの時間だった。
先ほどまで海苔をもらって喜んでいた男連中が、彼女の歌う姿を食い入るように見る。
二度目である僕ですら、営業中であることを忘れ、すっかり魅了されていた。
44:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/24(木) 15:51:56.66 ID:9uLTT2Jd0
帰り道、駅まで音無さんを見送るまでの間、僕は音無さんに今日の感想を聞いた。
「うーん――いまいち、まだ実感がありません。
ただ歌っただけですから、本当に私がレコードを出したり、テレビに出るのかなって」
音無さんは、俯きながら、呟くように答えた。
45:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/24(木) 15:55:28.36 ID:9uLTT2Jd0
彼女の表情は、やはりどこか不安げというか、まるで親に叱られるのを待つ子供の様だ。
何も心配することは無い。この人はもっと自分に自信を持つべきである。
「――正直に言って、僕はもっとダンスに秀でた子を探していたんです。
46:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/24(木) 15:57:50.43 ID:9uLTT2Jd0
4月から、音無さんも新生活が始まった。
それから一ヶ月程度、曲が出来上がるまでの間、僕達はただスカウトに専念した。
年度明けということもあり、新しい事にチャレンジする意欲のある子はそれなりにいる。
すぐに契約とは行かないが、候補生候補、と呼べる子は何人か見つけることができた。
47:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/24(木) 16:00:04.26 ID:9uLTT2Jd0
レコーディングが終わり、夕食を取ろうと入った近くの洋食屋で、高木が愚痴った。
「あっ。高木さん、またおっちゃん↑って語尾あげたでしょう?」
高木の悪ふざけに、音無さんはすぐさま反応し、人差し指を立てて注意した。
48:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/24(木) 16:01:39.69 ID:9uLTT2Jd0
あまりに純朴な彼女の感想に、僕と高木は目を合わせ、笑わずにはいられなかった。
「そりゃだって――おっちゃんはもうアイドルだし、俺達はプロデューサーだもの」
「高木の言う通りです。
まさか、本当は今まで僕達のことを、アイドル事務所の人間だと信じていなかったと?」
49:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/24(木) 16:03:56.50 ID:9uLTT2Jd0
商店街とは思えない、水を打ったような静寂。
やがて巻き起こる、地鳴りのような歓声。
50:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/24(木) 16:05:33.05 ID:9uLTT2Jd0
「す、すみません。でも――アンコールしてくれてる――」
ようやく呼吸を落ち着かせ、音無さんが先ほど降りたステージの方へ顔を上げた。
興奮からか、少し目が潤んでいる。
「大丈夫大丈夫、おっちゃんは十分すぎるほど仕事したよ。あの歓声が何よりの証拠さ」
51:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/24(木) 16:08:18.54 ID:9uLTT2Jd0
ひとたび営業に出れば絶賛され、テレビに出れば大きな話題になる。
待ちに待ったレコードが売り出されれば、その売り上げは加速していくばかりだった。
善澤が作ったらしい記事が店先に積まれ、あっと言う間に消えていく。
“みんなの歌姫おっちゃん”は、贔屓目無しに、今最も旬なアイドルだった。
52:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/24(木) 16:10:48.27 ID:9uLTT2Jd0
このところ、音無さんには平日も二、三日間、仕事に出てもらっている。
オファーが増えるにつれ、土日だけでは仕事を捌ききれなくなってしまったからだ。
「勉強は、帰ってからしています」
新曲のレコーディングを控えたボイストレーニングの休憩中、音無さんが語った。
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