7: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/08/31(日) 22:32:34.02 ID:FWRyUZRr0
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最近のわたしはどうもツイてないらしい。
8: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/08/31(日) 22:34:20.05 ID:FWRyUZRr0
しかし、テロリストに封鎖され絶望の監獄と化したビルには、希望が紛れ込んでいた。
捕まっていなかった兄が、武装集団の砦にわざわざ潜り込んでいた。
あらゆる超高校級の才能が集う学園の生徒である兄だったが、わたしと同じような凡人のはずだった。だから、恐ろしいテロリスト相手に武器なし策なしの兄が敵うはずもなく、あっさりとやられてしまうのが世の理というものだ。
世の理はひっくり返っていた。
9: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/08/31(日) 22:37:12.23 ID:FWRyUZRr0
超高校級の幸運と呼ばれる才能が、ただ一発のくじ運にとどまらないものである、と思い知らされたこの出来事を境に、わたしの不幸が始まる。
10: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/08/31(日) 22:38:25.00 ID:FWRyUZRr0
エレベーターに閉じ込められ、体育倉庫に閉じ込められ、山へ行けば遭難し、川へ行けば流された。
そして、街を歩けば品の良くない男二人に絡まれる。
11: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/08/31(日) 22:40:32.38 ID:FWRyUZRr0
雨の中、学校から家まで走り着いた時、今度兄が寮から帰ってくることを思い出したわたしは、そうだプレゼントでも探そう、と思い立ち、学校での友人の言葉も忘れ、ずぶ濡れの制服を着替えてから傘を掴んで家を出た。
駅の周辺を歩き回っているうちに、空は雨足を変えぬまま、夜の帳を下ろしていた。
雨で、しかも夜。
結局何も買えなかったが、このままうろつき続けるのはまずいことはわたしにも解った。
12: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/08/31(日) 22:42:16.92 ID:FWRyUZRr0
青頭がわたしの傘を畳みながら、自分の傘の中にわたしを引き寄せて、何事かをべらべらとまくし立てる。全然頭に入ってこない。
チューニングの合わないラジオを相手にしているようだった。断片的に「雨宿り」とか、「雨男」とか、「送ろうか」とか、「泊まろうか」とか聞こえてくる。
必死に、いいですいいです、と逃げようとするが、いいからいいから、と強く肩を抱かれ、逃げられない。金髪がかん高い声で笑う。
そうして、望まない相合傘でふらふらしてるうちに、暗い路地裏まで引っ張られていることに気づく。
13: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/08/31(日) 22:43:41.21 ID:FWRyUZRr0
解りやすい恐怖に晒されてやっと叫ぼうとした口を、青頭の手に塞がれた。そのまま壁に押さえつけられる。絶望的だ。涙が出てくる。
こんな時。こんな時、兄なら。
兄は苦境の中、ヒーローだった。諦めず、希望を見出し、幸運はそれに着いてくる。
わたしは、違う。
14: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/08/31(日) 22:44:56.35 ID:FWRyUZRr0
ぱしゃ、と、わたしの響くことのなかった声に応えるように、水溜りを踏む音が聞こえた。
15: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/08/31(日) 22:46:15.36 ID:FWRyUZRr0
突如雨音に混じった異音に、青頭と金髪が固まる。
ぱしゃ、ぱしゃ、と、道の向こうから近づいてくる。雨と暗さのせいでよく見えない。
「お取り込み中のとこ、悪いんだけどもさあ」
16: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/08/31(日) 22:47:35.06 ID:FWRyUZRr0
長い三つ編みおさげの、眼鏡をかけた少女だった。
この雨の中、傘も差していない。黒いセーラー服、黒い髪から絶えず水が滴っていて、闇から溶け出てきたのかと錯覚する。
「雨男って知らない?」
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