70: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 23:06:07.36 ID:UDVM4aPw0
一切の間を置かず、左の鋏が雨男の脇腹に噛み付いた。雨男は低く呻き、後退する。
更に右手の鋏が雨男の左肩を噛んだ。雨男が後退する。左の鋏が右肩を刺す。後退する。右の鋏が斬りつける。後退。左の鋏が裂く。後退。鋏が啄ばむ。鋏が抉る。
ジェノサイダーは絶叫にも近い哄笑を上げた。口が裂けそうな程、腹が千切れそうな程、喉が壊れそうな程、笑いながら、雨男を刻む。
71: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 23:07:27.06 ID:UDVM4aPw0
だらりと下がっていた雨男の右手が、矢で射抜かれたように、白塗りの壁に張り付いた。ジェノサイダーが鋏を突き立て、壁に縫い付けたのだ。ジェノサイダーは、自らの太腿に巻かれたホルダーから次々に新しい鋏を引き抜きながら、雨男の右二の腕、左二の腕、左手も同様に、串刺しに固定していく。内側のコンクリートが遠いのか、雨男の肉を通ってあっさりと、鋏が壁に突き立てられていく。
雨男が身体中に無数の鋏を生やし、磔が完成した。まるで新たなジェノサイダーへの供物のようだった。
信じられないことに、血達磨にされた上で磔にされてもなお、雨男は息をしていた。しかし、その命も最早、時間に奪われるか、ジェノサイダーに奪われるかのどちらかの未来しかない。
72: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 23:08:21.77 ID:UDVM4aPw0
「最後だし、きちんとお顔を拝見しよっか」ジェノサイダーが、雨男のフードに手をかけた。
「あら、なかなか素敵じゃないのよ。まあ、ちらちら見えてたから解ってたけどね」
73: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 23:09:07.01 ID:UDVM4aPw0
「僕は、雨の日を、ハレの日にしたかっただけだよ」目だけでわたしの方を見て、小さな、掠れた声で、友人は笑った。
鋏が、彼の首を貫いた。
74: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 23:09:53.35 ID:UDVM4aPw0
一瞬の出来事が、永遠に感じた。
喉仏の下に、閉じた刃の先が突き刺さる。気管、咽頭を貫き、頚椎を砕く。そのイメージが順番に、わたしの頭に展開されていく。
ジェノサイダーは、彼の首に深々と埋まった鋏を、鍵を開けるように捻じり、引き抜いた。首に開いた穴から、一気に鮮血が噴き出す。口からも、ごぽごぽと血の泡が漏れ出した。
がくり、と彼の頭が垂れた。糸の切れた人形のように全身からも力が消え去るが、突き刺さった鋏が倒れることを許さなかった。
75: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 23:10:58.39 ID:UDVM4aPw0
わたしにとって重苦しい静寂の後、はあ、ふう、とジェノサイダーが伸びをしてこちらを向いた。
「知り合いだった?」ポケットから取り出したハンカチで返り血を拭いながら、ジェノサイダーが、わたしに訊いた。
76: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 23:11:55.82 ID:UDVM4aPw0
「あなたは、これからは、殺人鬼を殺すんですか?」
「そうね。殺人鬼から、殺人鬼殺しに転向よ。人を殺せないんなら、殺人鬼を殺せばいいじゃない」マリー・アントワネットよりもネジの飛んだ理論だ。
77: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 23:12:45.03 ID:UDVM4aPw0
「そろそろ行くわ。こまぴーも早くずらからないと、面倒くせえことになるわよ」彼女は、とんとん、と靴の爪先で床を叩いた。
「わたしは、ちょっと、ええと」
78: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 23:15:10.10 ID:UDVM4aPw0
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雨男が死んだ日から、それなりに時間が経ったが、流石にまだ落ち着かない日が続いている。
79: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 23:16:30.08 ID:UDVM4aPw0
予想通り、その後は凄まじい騒ぎになった。当然だ。現場の物証や家宅捜索の結果から、あの死者が放火魔であることも、雨男であることも、すぐさま断定された。百貨店の火災が放火によるもので、しかも火を点けたのが連続殺人犯。更にその殺人犯が学生。天地がひっくり返ったような狂騒となるのも当然と言える。
しかし、わたしは真実を目の前に見ていた為に、世間と違う驚きを味わうこととなった。
ジェノサイダーの凶行について、一切の報道がなされなかったのだ。
80: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 23:17:20.64 ID:UDVM4aPw0
雨男は、一酸化炭素中毒により死んだこととなっていた。どんな検死を行ったとしても、あの惨殺死体が中毒死の死体となるわけがない。雨男が火を放つところを見ていた客が二人いて、その内の一人が通報した為、その現場に最初に踏み込んだのは、雨男を捕まえようとそこら中にいた警察だったらしい。悪戯に混乱を招かないための情報統制だろう。確かに、これで周辺住民の恐怖には終止符が打たれた。
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