30: ◆EhtsT9zeko[saga]
2014/10/11(土) 20:03:12.21 ID:fJh3zaYgo
「しかし、ずいぶんと深い森だな…」
お姉さんが川を覆うようにして生い茂る木々を見上げてそんなことを呟く。
「熊とか狼もいる、ってトロールさんが言ってました」
「へぇ。豊かな森なんだな」
「お姉さんは、熊って見たことありますか?」
「あぁ、あるよ。とびきりでっかいやつとかね」
「こ、怖くなかったんですか?」
「まぁ、最初はちょっとビビったけどね。でも、熊だって狼だって、大抵は人間を襲いたくて襲うなんてことはないからな。
驚かせたりしなきゃぁ、そうそう攻撃もしてこないもんだよ」
そうなんだ…あ、もしかして熊よけの歌は驚かせないように、ここに人間がいるよって熊に知らせるために歌うのかな?
そんなことを思っていたら、お姉さんが急に足を止めた。後ろ手に私に手の平を見せて止まるように、って合図を送ってくる。
な、なんだろう、急に…?
私は首を傾げながらお姉さんの向こうの景色を見やった。すると、ガサガサっと音がして、そばの茂みから何かが飛び出してきた。
それは、ネズミだった。でも、普通のネズミじゃない…イノシシくらいの大きさがありそうな、とっても大きくて真っ赤な目をしたネズミだ。
ネズミは、ふーふー!っと威嚇の声をあげてお姉さんに向かって全身の毛を逆立ている。こんなの、初めて見る…山にはこんな生き物もいるの…?
「おー、この山、こんなのもいるのか」
お姉さんがそう声をあげた。
「こ、これ、ネズミですか?」
「あぁ、うん。バケネズミだよ。本来は魔界の生き物だったんだけど…戦争のときに魔族が大量に連れてきて、逃げ出したのが住み着いていることがあるんだ」
ま、魔界の生き物!?
そんな怖そうなのがこの山にいるの?トロールさんや妖精さんだけじゃなくって…!?
私はそれを聞いて全身を固くして緊張してしまったけど、お姉さんはカカカっと明るく笑った。
「大丈夫。こいつらだって熊と一緒。こっちに敵意がないってわかれば、そうそう襲ってくるようなこともないよ」
そういったお姉さんは、腰のベルトに通してあった皮袋から、さっき食べ残した木苺を一粒取り出すと手の平に乗せてネズミの方へと差し出した。
ネズミは、少し警戒した様子でお姉さんと木苺を交互に見つめながら、素早い動きで木苺を奪い取るとそのままガサガサと茂みの中に消えていった。
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