過去ログ - 苗木「彼女との再会」
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29:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2014/12/04(木) 23:33:58.24 ID:WsBRUpo9o

「まあまあ、いいじゃないですか。……そうそう、見ていたと言えば、妹さんとお話している所もですね」
「あ、妹も知ってるんだ?」
「最初は妹さんだとは分からなかったんですけどね。『お兄ちゃん』って呼ばれてたのを聞いて、その時に初めて知りました。ただ、お名前までは知らないんです」
「えっと、平仮名で『こまる』だよ。苗木こまる、だね」
「なるほど、こまるちゃんですか。同じ平仮名の三文字同士、何か親近感が湧きます」
「あ、言われてみれば」

苗木こまる、舞園さやか。確かに、苗字だって同じ漢字二文字だし。……何か、少しだけこまるが羨ましい。

「こまるちゃんって、背高かったですよね? 当時、私と同じくらいに見えました」
「うん、多分同じくらいだったと思うよ。ただ、あいつの方が僕より高かった所為で、周りからは僕の方が弟みたいって言われてたんだよね……」

友達にもよくからかわれてたな……まあ、仕方ないんだけどさ。大抵の兄妹は兄の方が背が高いだろうし……。

「ふふ、それでも苗木君はお兄ちゃんですよ。仲は良いんですか?」
「うーん……どうだろ? 僕は普通くらいだと思ってるけど、周りからは仲良すぎって言われてたかな……」
「まあ、一緒に登校だってしてましたもんね」
「あ、そんな所も見られてたんだ」

中学の時は、僕とこまるは一緒に登校していた。こまるは一つ下だから、僕が二年の時からだけど……舞園さんも見てたんだな。

「だから、私にはとても仲の良い兄妹に見えてました。私は一人っ子なので羨ましかったです」
「あ……そっか。舞園さんは一人っ子だったよね」
「はい。小さい時は毎日一人でお留守番をしなきゃいけなかったから、寂しかったです。あ、それと言うのも、ウチが父子家庭だったからなんですけど……苗木君、知ってました? 一応、テレビで話した事もあるんですけど」
「……うん。当時、僕もテレビで観てたよ」

子供の頃、お父さんは毎日夜遅くまで働いていたから、いつも一人でお留守番をしていた。
自分を養う為だという事は分かってたけど、まだ子供だったしそれでも寂しかった……と、当時の舞園さんは寂しげな表情でそう言っていた。
学校から家に帰っても誰もいなくて、子供一人にとっては広すぎる家で静かに過ごす。
母さんも妹もいて、留守番だって一人じゃなかった僕には、完全に共感する事は出来ないだろうけど……それでも寂しかっただろう事は、舞園さんの表情を通して僕にも伝わった。

「当時寂しさを紛らわせてくれたのが、テレビの中のアイドルだったんだよね? それが、舞園さんがアイドルを目指すきっかけにもなって……」
「はい! お姫様みたいに可愛くて、歌もうまくて、踊りも上手……そして、笑顔で皆を元気にして、勇気づける。そんなアイドルを夢見て、私はこの道を選びました」
「でも、最初はお父さんに猛反対されたんだよね?」
「されましたされました! 養うだけでも大変なのに、娘がアイドルになりたいだなんて言い出すんですからね。何とか説得出来てこの道に進む事が出来ましたけど、お父さんには随分無理をさせちゃってました。無事に恩が返せて良かったです」
「……舞園さんは本当にすごいよね。小さい頃からの夢を叶えたんだから……」

皆を元気にして勇気づける、そんなアイドルに。今の華やかな場所に立つ為に、きっと想像を絶するような努力をしてきたんだろう。
その努力が功を奏して、今のこの笑顔があるんだよな。一人のファンとして、友達として……本当に良かったと、僕も心からそう思う。

「前の高校でも、舞園さんのファンはたくさんいたよ。新曲が発売されたら、次の日は感想をお互いに言い合ったりして盛り上がってたね。皆、舞園さん達の歌に元気をもらってた」
「ふふ、やっぱり嬉しいですね。私達の歌が大勢の人達の心に届いてるって、こうして知る事が出来るのは……。その、苗木君はどうでしたか? 私達の歌は、苗木君の心にも届いてましたか?」
「もちろんだよ! 僕だって、中学を卒業してからも舞園さん達から元気をもらってたよ。歌を聴いたら嫌な事だってすぐに忘れられたし、テレビで活躍する姿を見たら次の日も頑張ろうって、そう思えてたから」

離れ離れになった後も、舞園さんは僕の励みになっていたんだ。そう本心を告げると、舞園さんの顔からは満面の笑みが零れた。

「良かった。苗木君の力にもちゃんとなる事が出来てたんですね」

そう言うと、舞園さんはさっきみたいに、また僕の両手を包み込むように握った。
舞園さんが喜ぶ姿を見ると、自然と僕も嬉しくなる。もっともっと、舞園さんのこの笑顔が見たくなる。

(それにしても……)

舞園さんって、よく手を握ってくるよな。玄関ホールに入る時、教室で隣の席だと分かった時、鶴の一件を話した時、そして今。
ひょっとして、スキンシップが好きなんだろうか。舞園さんと触れ合えるのは嬉しいからいいんだけど、やっぱりどきっとしてしまう……。


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