過去ログ - あやかしの地獄
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90: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/26(木) 23:30:47.77 ID:MBaWhPHO0
4

それにしても、腹が空きました。
妾は少しばかり田舎の出で、俗世には疎い身ではあります。
しかしながら、父母様が妾をお叱りになる内容を今一度振り返ってみますと、淑女としての教育はシッカリなされていたように思います。
以下略



91: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/26(木) 23:37:16.02 ID:MBaWhPHO0
ふと、なにやら良い匂いがする事に気が付きます。
肉が煮える匂いです。
骨から出汁が流れ出て、それが肉へと染み込み、じゅおっと旨みが溢れ出る……そんな匂いです。
誰かが鍋で肉を煮ているのです。

以下略



92: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/26(木) 23:40:52.99 ID:MBaWhPHO0
……今思えば、恥ずかしい行為ですこと……。
アンマリにも腹が空いたからって、ここ掘れ応々、だなんて……ホホホ……。
しかしながら、空腹とは人を獣にするようでして。エエ……。

ズンズンと進みますと、匂いは濃くなり、空気は水気を帯び重たくなります。
以下略



93: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/26(木) 23:44:44.14 ID:MBaWhPHO0
白いものが交じった髭だらけの、汚らしい襤褸(ぼろ)を羽織った男です。
普段の妾でしたなら、きっと近付きもしなかったでしょう。
ですが、今の妾には男の姿すら見えておりませんでした。
ただ、美味そうな匂いを漂わせる鍋が、気になって気になって仕方がありませんでした。

以下略



94: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/26(木) 23:48:00.53 ID:MBaWhPHO0
「ナンダ……食いたいっていうのかい。エエッ……」

嗄れた声で呟く男は、妾では無く何処か別の人に語りかけているかのようでした。
しかしそこには妾しかおりませんでしたので、キット男は妾に話しかけているつもりなのでしょう。
妾は何も言わず、唖のようにただ凝然(じっ)と指を咥えて鍋を見つめておりました。


95: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/26(木) 23:53:57.45 ID:MBaWhPHO0
「……腹が減っておるのかい」

男はナニヤラ迷っているようでした。
自分の折角の食事を、赤の他人である妾にくれてやるのを躊躇っているような素振りです。
男の目がギョロリギョロリと、妾と鍋を行き来します。
以下略



96: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/26(木) 23:56:49.33 ID:MBaWhPHO0
妾はもう我慢なりません。
今にも男から鍋を奪い取らんとする勢いです。

「食わせてくれるのですか」

以下略



97: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/26(木) 23:58:15.90 ID:MBaWhPHO0
ですが、ちらと見たトタンに、妾の食欲やら胸の高まりやらは、
一気に萎んでしまいました。


98: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/27(金) 00:00:14.99 ID:jdn1l7cc0
鍋の中身と、目が合ったのです。


99: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/27(金) 00:02:45.59 ID:jdn1l7cc0
妾は腰を抜かして、冷い地面に尻もちをつきました。
男は何処吹く風といった顔で、尚も鍋をかき回しております。
その何気ない行動が、今の妾にはトテモトテモ恐ろしいモノに感じました。
間違いありません。ダッテ、シッカリと目が合ったんですもの……。

以下略



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