30:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/05(日) 18:21:46.81 ID:lE2tgw5So
「……海未ちゃん。ちゅうして」
動けない私の腕を引く。
床にはしたなく身体をもたげたまま、
31:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/05(日) 18:22:13.36 ID:lE2tgw5So
ざぶざぶとあふれる水流の音が引くまで、私たちは何も言わなかった。
向かい合った反対側で、ことりが静かに見つめている。
その後ろの窓からは、曇りガラスごしにも分かるほど月の光が滲んでいた。
32:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/05(日) 18:22:39.95 ID:lE2tgw5So
「その、……ええと、衣装づくりですよ。デザインとか、どうやって考えてるのかなと」
ああ、と合点がいったことりはぱっと顔を明るめ、それから口元に指を当てて考え込む。
33:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/05(日) 18:23:06.50 ID:lE2tgw5So
ぱちゃりと水面から反対の手が伸びて、濡れた指が私の頬をなぞる。
そのまま耳たぶをつまんでみたり、あごをくすぐってみたり。
「っ、またですか」「ほんっときれいだよねぇ」
34:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/05(日) 18:23:33.05 ID:lE2tgw5So
そのまま顔をいいようにされながら、歌詞の書き方を捉えなおしていた。
窓の方を見ようにも、首や頬に動く指先が邪魔してうまくいかない。
目を閉じた方がずっと楽だった。
35:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/05(日) 18:24:00.08 ID:lE2tgw5So
「その、私の歌詞の話です。
うまく言えませんが、きっと私の心が考えて、手が書いているんです」
私の奥深くの、自分でも分からない場所の声を、手が聞き取っている。
36:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/05(日) 18:24:26.66 ID:lE2tgw5So
――ここに、海未ちゃんのこころがあるの?
ことりはそのまま目を閉じて、私の心拍を聞いていた。
載せられた手に何かを伝えようと、私の心拍が大きくなる。
37:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/05(日) 18:24:53.22 ID:lE2tgw5So
瞼の闇の向こう側で、ぽつりぽつりと聞こえる。
わたし、怖かったの。
海未ちゃんがそこにいるのに、いないみたいで。
38:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/05(日) 18:25:19.75 ID:lE2tgw5So
目は開けなかった。
ことりが私に触れているうちは、目を開けなくても大丈夫だった。
瞼を閉じてもそこに淡い一人分の熱があって、心臓が動いていて、手で繋がっている。
39:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/05(日) 18:25:46.31 ID:lE2tgw5So
ことりの心拍に触れた。
まっさらになって、指先の振動を感じてわずかな声を聞いた。
やっと、やっときてくれたぁ! 触れた場所からことりが溶けだしていく。
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