9:野良猫 ◆oiBB.BEDMs[saga]
2015/05/06(水) 10:43:13.70 ID:JvRyHgVUO
「私もさ、そういう時期があって喧嘩した事があったんだけどね。父親ってさ、娘との距離感がわからないらしいのよね。どう話して良いのかわからなくて、それで適当な感じになってしまうって聞いたわ」
つばさがアイドルを目指すと決めて直ぐの頃は、つばさも父親とは沢山喧嘩した。
今から考えれば父は父なりにつばさの将来を心配していたのだろうが、夢を追うつばさに負けたのか、ある日ゆっくりと話をしてくれた事があった。
普段はあまり多くを語らない父が、口下手ながらに色々な事を話してくれたことは今でも忘れていない。
きっとあんじゅの父もどう応援すればいいのか、分からないのだろう。
なれるか分からないアイドルよりもとも考えて、かといって娘の夢を摘み取る事もできず。だがそれでも、娘が会いたいと言えば断る事が出来なかったのだろうと、つばさは言った。
「直ぐには難しいかも知れないけど、一度ゆっくり話してみるのも良いかもしれないと思うわ」
「そう……ですね。そうしようと思います」
「部外者が偉そうにごめんなさい。これはあくまで私の感想というか、経験談というか、参考程度で構わないからね」
「いえ、本当にありがとうございます。つばささんに話して良かったです。少しだけ、父の気持ちが理解できたように思えました」
「そう言って貰えると私も嬉しいな。これからもさ、どんな事でも話してくれれば私なりに力になるからね」
「ありがとうございます」
微笑むあんじゅの顔に、むず痒さを覚えながらホッと息をついて、照れたような笑みを返した。
そんなあんじゅの顔を思い出しながら、つばさは誘いのメールを送る。返事はすぐに届き、つばさの友人全員の参加が決まった。
一足早く視聴覚室へと向かい、友人たちの到着を待つ。つばさの他に誰もいない視聴覚室は、しんと静まりかえっている。
そんな中にいると、どうしても不安や期待が込み上げてきて、つばさはディスクケースの角を立ててくるくると回しながら思案を巡らせた。
10分程が経過した頃、こんこんというノックの音と共にあんじゅが部屋へと入って来た。
「お待たせしました」
「気にしないで、急に誘ったのはこっちだしね」
「他の方はまだなのですね」
「もう少しだと思うわ」
どこか緊張した様子のあんじゅに、つばさは「大丈夫」と言って自分の隣の椅子を引いた。
「ありがとうございます」
腰を降ろすあんじゅはまだ緊張しているようだが、つばさはそれほど心配はしていなかった。
(大丈夫)
きっと直ぐに仲良くなることだろうと、広がっていく友人の輪に期待を馳せながらつばさは他の友人たちを待った。
あんじゅから遅れること10分足らず。
「ごめんね〜」
「この子が中々手間取ってね」
「人の所為にするなし〜」
と、三者三様の言葉を口にしながら、つばさより一列前の席に陣取った。
「これ差し入れね〜」
そう言って取り出したのは袋に入ったお菓子だ。
「どんだけ買ってるのよ」
呆れ気味につばさは言って、そもそも視聴覚室は飲食禁止なんだけどと付け足した。
「いーじゃんかー」
「今日だけだからさー」
ぶーぶーと抗議しながら、既成事実を作らんと彼女たちはスナック菓子の封を切った。
「あぁ、もう……」
もう何を言っても無駄だと悟ったつばさは、絶対に散らかさないようにと言いつけてから、スナック菓子へと手を伸ばした。
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