過去ログ - 八幡「真のぼっち」
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15:名無しNIPPER[saga]
2015/06/21(日) 13:44:03.93 ID:KKdbAala0
 だが、先生はその怒りを爆発させる事もなく俺から視線を切ると、ノックもせず教室の扉を開いた。
 中を見た感想は普通の空き教室だった。
教室の後ろ半分には机と椅子が積み上げられている所だけを見ると、使われていない備品の倉庫の一つだと思った事だろう。
しかし、それらの荷物に占領されていない教室の前半分には長机が置かれており、それと窓際に座る一人の少女がここが何かの部の部室である事を示していた。

 春とはいえ日が沈み始める時刻、暖かさと寒さ、明るさと暗さの交じり合う教室の中でそれらの均衡のよりも尚儚いものが有った。
窓際で一人本を読む少女。それはありふれた情景の中に現れた、今まで俺が見たことのない特別なものだった。

 暖かなさ教室内に廊下から冷気が流れ込んだ。
その風が背中を撫でる感覚を、まるで彼女に引き込まれる自分の魂のように錯覚しながら、俺は我知らず入室していた。

 俺はあまりにも馬鹿な思考を頭を振って追い出しながら、先生の肩越しに少女が顔を上げるのを見た。

 来訪者が先生であることを確認した少女は手に持っていた本に栞を挟み込んでから尋ねた。

「平塚先生。今日はどういったご用件ですか? 入るときにはノックをして下さいとお願いした筈ですが……落ち着かない様子ですし、何か急ぎの用でしょうか?」

 沈みゆく陽光を浴びて少女の長い黒髪が黄金色に輝き、流れてしまった一部の髪が彼女の白く細い指によって耳に掛けられる。
その動作の合間、彼女の髪を透かすように夕陽が強く輝き、目が焼かれる。
いや俺の目が焼かれたのはきっと陽の光じゃなく彼女の美しさにだろう。
そんな事を真剣に考えてしまうほど、その少女は美しかった。



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