過去ログ - 奉仕部の三人は居場所について考える
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730:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/25(金) 00:06:09.01 ID:vhSqVbECo
「……何が」
「三人の新しい居場所で、生徒会でいろいろやれてさ、いろはちゃんも隼人くんもいて……。今、楽しいの。あたし」
「それじゃ答えになってねぇだろ」
731:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/25(金) 00:08:18.47 ID:vhSqVbECo
胸が詰まる思いがして返事をすることはできなかったが、由比ヶ浜も別に返答を求めてはいないようだった。
このままでなくしてしまうのは俺かもしれない。当然壊すだけで終わらせたいわけじゃないが、静かな水面に石を投げ込むような行為をしようとしているのはわかっていたから、何も言うことができなかった。
会話が途切れ静かになると、雪ノ下の微かな寝息だけが聞こえる。
732:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/25(金) 00:09:51.36 ID:vhSqVbECo
そこには頬を朱色に染めながらぼんやりと外を眺める由比ヶ浜がいた。
声を発することはないが、確かにここにいると寝息だけで主張する雪ノ下がいた。
そしてともすればそんな幸福な時間を甘受してしまいそうになる俺がいた。
733:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/25(金) 00:10:38.43 ID:vhSqVbECo
居場所とは、心の拠り所のことだ。
なら俺のすべきことは、思いを言葉に変換することだ。
「なぁ由比ヶ浜。蒸し返すけど、あれはよかったのか、本当に」
734:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/25(金) 00:11:38.79 ID:vhSqVbECo
忘れろと言われてもそんなこと俺には無理だ。立ち止まったままでどうしようもない俺に、自ら踏み込んでくれた由比ヶ浜に俺は何も返せていない。
感情の処理の仕方を知らず適切な距離というものがわからないことを理由に、いや、言い訳にして何も応えていない。
どう答えるのが正しいかなんて未だにわからないが、今の俺がどう思われていようと、俺がどう思っていようと、由比ヶ浜にきちんと向き合わなくてはならない。
735:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/25(金) 00:12:27.90 ID:vhSqVbECo
「……ゆきのん」
「起きてたのか」
「二人の声で目が覚めたのよ。由比ヶ浜さん、私は……」
736:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/25(金) 00:13:33.54 ID:vhSqVbECo
二人だけで完結しそうな会話に慌てて割り込む。
「なんでって、これからも三人でいられたらいいなって思うの、変かな」
「違う、そうじゃない。それは俺も同じだ」
737:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/25(金) 00:14:46.23 ID:vhSqVbECo
雪ノ下は俯きがちになりながら訥々と語る。
「理由とか理屈とか建前とか、そんなものどうだっていい。ただ、私は純粋に……この居場所を失くしたくない。絶対に」
姿勢を正した拍子に由比ヶ浜が肩に掛けたブランケットが床に落ちた。雪ノ下はそれを拾うことなく抱えた思いを吐露し続ける。
738:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/25(金) 00:15:42.49 ID:vhSqVbECo
俺は何を言うべきなのかわからなくなった。どこまでもすれ違うことに呆れ果て、全身から力が抜けそうになった。
今の雪ノ下が少し前の俺で、今の俺が少し前の雪ノ下だ。
二人のやり取りを見るに、現在の由比ヶ浜と雪ノ下は同じことを考えているようだ。
739:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/25(金) 00:17:10.14 ID:vhSqVbECo
「俺は……お前らからしたらすげぇ勝手で、酷い奴なんだと思う。ただの俺の自己満足なのかもしれねぇけど、それでも言葉にしたい。そうするって決めたんだ」
こういうことを話すときはどんな顔をすればいいのだろうか。相応しい表情があるのかは知らないが、俺が今どういう顔をしているかは容易に想像できる。
きっと、我慢しようとしているのに我慢しきれず駄々をこねる、泣き出しそうなみっともない顔だ。
740:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/25(金) 00:18:52.84 ID:vhSqVbECo
こんなところで泣くのは甘えだ。自分でそうすると決めたのだから、俺が泣く理由なんかどこにもないし、これ以上無様で惨めったらしい姿をこいつらに見せたくない。
「どれだけ言葉を尽くしても誤解されるかもしれないし、言いたいことの半分も伝わらないかもしれない。話せばわかるなんて、俺の傲慢な思い上がりに過ぎねぇのかもしれない」
これまで俺も、雪ノ下も、由比ヶ浜でさえも決定的な言葉を避けに避けてここまできた。その中でも数えきれないほどに、俺の身には余るほどの幸せな時間を過ごしてきた。
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