過去ログ - 万里花を愛でるニセコイSS「ハリコミ」
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1:名無しNIPPER
2015/08/07(金) 00:20:55.42 ID:X2fAk2+b0
「おかえりなさいませ、楽様! ご飯にします? お風呂にします? それとも……」
「いや、普通にご飯で……」


玄関先で投げかけられたあまりにもベタな橘万里花のセリフを遮って、一条楽は答えた。
楽様のいけずー、とぶーぶー言いながらも食事の支度を始める万里花に軽く苦笑しながら、楽は1DKの室内を改めて見回す。
家具も荷物も最低限。つい最近、新婚生活を始めたのだと言えばなるほどなと納得できそうな様子の部屋の奥に、一つだけ不釣り合いな品物――望遠鏡が置かれていた。

「様子はどうだ?」
「今のところ、特に動きはないみたいですけど……」
万里花が夜食を並べたお盆を持ってキッチンから出てくる。

そっか、と応えながら楽は望遠鏡を覗き込んだ。レンズの向こうには、何の変哲も無い一軒家。日はとっくに暮れているが、明かりは付いていなかった。
確かに万里花の言う通り、異常はないらしい。

楽と万里花、二人してマンションの一室で暮らし始めて五日目。
といっても、結婚したとか同棲を始めたとかそういったことではない。
とある事件の捜査の一環として、強盗事件の容疑者の隠れ家と思しき一軒家の張り込みをしていたのだった。

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2:名無しNIPPER
2015/08/07(金) 00:21:25.32 ID:X2fAk2+b0



「あの、楽様……ちょっとお願いしたいことがあるのですが……」
「ん、何だ? 橘が頼みごとなんて珍しいな」
以下略



3:名無しNIPPER
2015/08/07(金) 00:22:03.60 ID:X2fAk2+b0
「でもよ、だからって素人の俺たちが……」
「警察は今、深刻な人手不足なのです。町中で起きる、ヤクザとギャングの小競り合いの取り締まりもありますし……」
「うっ!」

「それに、町の平和を取り戻すために努力するのは、善良な市民の務めではありませんか」
以下略



4:名無しNIPPER
2015/08/07(金) 00:23:18.28 ID:X2fAk2+b0



「はい、楽様。お夜食ですわ」
「おお、アンパンと牛乳か。夜食っぽくはないけど、張り込みっぽいな!」
以下略



5:名無しNIPPER
2015/08/07(金) 00:24:16.98 ID:X2fAk2+b0

「せっかく望遠鏡があるのですから、ロマンチックに天体観測でもしましょうか」
「いやいやいや。星は星でも、俺たちが見張るのは別のホシだからな」
窓際に据え付けられた望遠鏡の前に、二人並んで腰掛ける。レンズの向こうの一軒家には依然として人の気配はなかった。

以下略



6:名無しNIPPER
2015/08/07(金) 00:25:55.12 ID:X2fAk2+b0
夜も更け、午後11時。強盗犯の隠れ家には何の動きもない。
気温が下がってきたので楽は毛布を取り出してくると、万里花の肩にかけてやってから自分もその隣に腰を下ろした。

「ありがとうございます、楽様――って!?」
毛布は一枚しかなかったために、楽は毛布を羽織ったまま、その片側を万里花の肩にかけてやったのだった。
以下略



7:名無しNIPPER
2015/08/07(金) 00:26:44.08 ID:X2fAk2+b0
「しかしさっきのアンパンは美味かったなー。橘の料理の腕前にはホント脱帽だぜ」
「そんな、楽様こそ。昨日のお弁当はとっても美味しかったですわ」

張り込みといっても犯人が現れなければすることは特にない。
暇を持て余す二人は、毎日交互に料理とお弁当を作りあっていたのだった。
以下略



8:名無しNIPPER
2015/08/07(金) 00:27:35.94 ID:X2fAk2+b0
「そうですわ!」
いいことを思いついた、とばかりにくるりと頭を回転させて、楽の顔を上目に見ながら万里花が言う。

「ハンバーグにしましょう! 今日、パンの生地をこねていて思ったのです。楽様と一緒に作ったらきっと楽しいに違いないですわ」
「ハンバーグか。たまにはいいかもな」
以下略



9:名無しNIPPER
2015/08/07(金) 00:28:34.62 ID:X2fAk2+b0
午前1時。相変わらず異常なし。
眠い目をこすりながら、万里花が望遠鏡の覗き込んでいる。

「そろそろ寝た方がいいんじゃないか? 後は俺が見てるからさ」
元気そうに見えて、万里花は実は身体が弱いだけに、無理をさせるわけにはいかない。
以下略



10:名無しNIPPER
2015/08/07(金) 00:29:20.99 ID:X2fAk2+b0
「ん?」
ふと気がつくと、隠れ家の窓に明かりが灯っていた。
警察は自分たちも含め距離をとって見張っているはずだから、これはつまり――。

「お、おい、橘、犯人が戻って――って」
以下略



11:名無しNIPPER
2015/08/07(金) 00:31:04.60 ID:X2fAk2+b0


「むにゃ……うう、朝……?」
寝ぼけた声を上げながら、万里花が目を覚ましたのは布団の上。
目の前には、愛しい彼の寝顔。
以下略



12:名無しNIPPER
2015/08/07(金) 00:31:35.44 ID:X2fAk2+b0
「あっ!」
しょんぼりしていた万里花が突然大声を上げる。

「こ、今度は何だ?」
「事件が解決したということは、この張り込みもおしまいですか?」
以下略



13:名無しNIPPER
2015/08/07(金) 00:32:01.21 ID:X2fAk2+b0
目いっぱいに涙を溜めた悲しげな表情で、俯き加減に楽を見つめる万里花。
いつだって一生懸命で、いっだって真っ直ぐに楽を想い続ける女の子。
すっかり夫婦気分でいたけれど、自分はその想いに何一つ応えていなことを楽は思い出した。

「……ハンバーグなら、俺んちで作ればいいだろ」
以下略



14:名無しNIPPER
2015/08/07(金) 00:33:23.53 ID:X2fAk2+b0

「あ、そうですわ」
すりすりしていた頬を離し、万里花が言う。

「楽様、朝ご飯にします? それとも昨日お風呂に入れなかった分、先にシャワーにします?」
以下略



15:名無しNIPPER
2015/08/07(金) 00:34:01.44 ID:X2fAk2+b0



抱き合いながら眠る二人。
そんな姿を、向かいのビルから本田忍は双眼鏡のレンズ越しに監視していた。
以下略



16:名無しNIPPER
2015/08/07(金) 00:38:43.82 ID:X2fAk2+b0
おしまい


17:名無しNIPPER[sage]
2015/08/07(金) 00:43:24.69 ID:fvB6mNTBo
乙です


18:名無しNIPPER[sage]
2015/08/07(金) 01:03:45.22 ID:7T/MtZbF0

やっぱマリーがナンバーワン


19:名無しNIPPER[sage]
2015/08/07(金) 02:30:44.97 ID:tnODEUQaO
マリーにはホンット報われてほしい


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