321: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:30:35.30 ID:s8phhYh5O
「おうお疲れ。これは音の機材だよ。秋葉原でジャンク品を安く調達してきて、直しているところだ」
新しいコンデンサを半田づけする目線を逸らさないまま、Pは答えた。
「音の機材? それで何をするの?」
322: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:31:08.36 ID:s8phhYh5O
Pは顔を挙げて「おいおいおい随分非道い云い種じゃないか」と口を尖らせた。
「ごめん、あまりにも予想外だったからさ」
「いいさ。ま、昔取った杵柄ってやつだよ。大学の頃にちょっとかじってた」
323: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:31:45.74 ID:s8phhYh5O
「ふうん……私の曲、か。楽しみに待ってていいのかな?」
凛が、作業中のPの顔を覘き込むように、机に顎を乗せて訊ねた。
「……あまり過度な期待はするなよ」
324: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:32:17.45 ID:s8phhYh5O
日々の内容に大した差異はないはずだが、明確な目的を認識するだけで気の持ちように変化が現れる証左だ。
Pは満足げに頷いて、修理を終えた機材に火を入れた。
買ってきた時点ではうんともすんとも云わなかったディスプレイが、明るく反応する。
325: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:33:02.55 ID:s8phhYh5O
鼻歌を奏でながら、一緒に入手した中古の鍵盤を接続して動作を確認していると、
事務用品の補充に外出していたちひろが戻った。
Pの予想よりも早い帰社だった。
326: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:35:01.93 ID:s8phhYh5O
本日のレッスンスタジオまでの道のりは、あっという間だった。
つい先刻から、不思議なほど非常に身体が軽い。
327: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:35:32.08 ID:s8phhYh5O
普段、凛だけでなく卯月や未央を鍛えてくれている明や慶に、よく似たその女性。
しかしトレーナー二人より年齢を重ねているように見え、何よりも纏うオーラが桁違いに強い。
非常に失礼なことながら、Pは彼女を顔をじっと凝視した。
328: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:36:02.34 ID:s8phhYh5O
青春時代の、異性の象徴。
同級生たちと、ときには熱く魅力を語り合い、ときには下世話な談笑の種として存在し続けた、トップアイドル。
社長がかつてプロデュースしていたその女性―ひと―が、今はレッスン教室を主宰しているとは聞いていたが。
329: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:36:32.14 ID:s8phhYh5O
その言葉にはっと意識を取り戻し、しかし脳味噌は取り乱したままで、
「はい、CGプロ、渋谷凛を担当するPです。あの、ずっと、貴女のファンでした! いや今でもファンです!」
とアイドルプロデューサーらしからぬ発言をしてしまう。
330: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:37:01.85 ID:s8phhYh5O
「とてもありがたいが……私はとっくに引退した身だし、今ではただの教官に過ぎないぞ」
「それでも、自分にとって、貴女は永遠のトップアイドルなんです」
「……嬉しいね。社長がこの場にいたら、きっと彼も喜んだんじゃないかな」
331: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 04:37:32.00 ID:s8phhYh5O
「なに、今日はオフだ。私自身は契約の身ではないが、妹たちが世話になっているからな」
きちんと指導できているかをチェックしに来たのさ、と破顔する。
この人にかかれば、明たちトレーナー陣もレッスン生と化してしまうようだ。
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